ザクカイ♀バレンタイン

「なぁ、鬼ヶ崎」
ザクロの声にカイコクがきょとりとこちらを向いた。
ふわりと揺れる彼女の長い髪にザクロはドギマギしながら「今日は何の日か知っているか?」と問う。
「今日?ってぇと…」
「…今日は2月14日だ」
首を傾げるカイコクにそう言えば、彼女は、ああ!と嬉しそうに手を叩いた。
甘いものが苦手な割にバレンタインは知っていたか、とホッとした…のも刹那。
「今日は煮干しの日、だろう?」
「…は?」
「単なる語呂合わせだが…この日は煮干しをたくさん食べても怒られねぇ…忍霧?」
的外れなそれに目を丸くしていれば嬉しそうに話していた彼女が不思議そうにザクロの名を呼んだ。
まさか煮干しの日とくるとは思わず固まっていたザクロは、目をぱちくりとさせるカイコクに慌てて返事をする。
それだけで良かったのだろう、彼女はにこりと笑ってみせた。
「そうだ!俺がお気に入りの店の煮干しがあってなぁ。ちと待っててくんな、すぐ戻る」
「あ、あぁ」
嬉しそうに立ち上がり、パタパタと出ていく彼女に頷くのがやっとで。
ザクロは小さくため息をついた。
…カイコクからチョコが欲しかっただけなのに。
流石に自分からチョコをくれ、なんて格好の悪いことも言えず、回りくどくなった結果が…これだ。
まあ、彼女が好きだと言うものを貰えるだけ良しとするか、とザクロは諦める。
あまり好きを共有しないカイコクから貰えるだけ十分だ、と。
「忍霧」
ひょこりと戻ってきたカイコクが髪を揺らし、楽しそうに何かを差し出した。
煮干し、にしては随分小さくて可愛らしい箱に入っているな、と思いながら受け取る。
「…ありがとう、鬼ヶ崎」
「ふふ。味わって食べてくれよ?」
礼を言うザクロに、上機嫌に笑いながらカイコクはとん、と指でザクロのマスク越し、唇に触れた。
そんな事を言うなんて珍しい、と箱を開けたザクロの目に飛び込んだのは、少し歪な形のチョコレート。
「…は……?」
あまりの事に呆けていれば、カイコクがへにゃりと笑って言葉を紡ぐ。
ああ、やられた、と頭を抱えるまで後数秒。
…今年も無自覚小悪魔な彼女に敵いそうにない。

「今日が何の日か知ってるぜ?…ザクロくん!」

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