ザクカイバレンタイン

「待て、鬼ヶ崎!」
「いーやーでぇ!!」
ぎゃーぎゃーと二人の声が響く。
またやってるーとケラケラ笑うのはユズだ。
「…?なんですか、あれ」
「ザッくんがカイさんからチョコ貰おうと追い回してる」
疑問符を浮かべるカリンにユズが簡素な答えを返せば、ああ、と彼女は納得をした顔をした。
「懲りませんねー」
「ん?それは…どっちがだい?」
呟いたそれにユズが首を傾げる。
分かっているだろうに、とカリンは隣に座りながら少し向こうで揉めている彼らを見ながら嘆息した。
「どっちも、ですよ」


その、ほんの少し前。
彼らが揉める…前の話。
「…鬼ヶ崎」
「…んあ?どうした?忍霧」
少し固い声で彼の名を呼べばきょとりとしてカイコクはこちらを向いた。
「今日は何日だ?」
「…急だな。ええと…俺の誕生日から2週間…くらいか?いや、そんな経ってねぇな。10日前後…ってとこか」
突然のそれに眉を寄せながらも彼は律儀に考えてくれる。
口調からして忘れているようだが…態と話をはぐらかしている訳ではなさそうだ。
仕方がないので小さく息を吐き、答えを口にする。
「今日は2月14日だ」
「なんでぇ、知ってんじゃね、ぇ…か……」
ザクロの口振りにカイコクは文句を言おうとし…はたと止まった。
2月14日。
それが意味する日。
…それは勿論。
「…今日が何の日か…知っているよな、鬼ヶ崎?」
ジロリと睨めば彼はじり、と後退った。
この反応は『思い出した』のだろう。
なら。
「…っ、鬼ヶ崎!」
「嫌でぇ!」
「何故だ!去年はくれただろう!」
「去年は去年!今年は今年!!」
詰め寄るザクロに逃げるカイコク。
去年もやったな、なんて思う余裕は双方どこにもなく。
ザクロはカイコクに手を伸ばした。


毎年の恒例行事となりつつあったとしても。

(俺は、お前からのチョコが欲しい!!!)

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