類冬バレンタイン

「…おや、これは」
自分の下駄箱に入った小さな箱を見つけ、類はくすりと笑う。
「おやおやぁ?随分モテるねぇ」
「…今日はお早い登校じゃないか?瑞希」
ひょこりと覗く昔なじみにそう返せば、つれないなぁ、なんて笑った。
「今日はバレンタインだからねぇ。杏にチョコの交換会やろーって言われて。あ、類もいる?」
「そうだねぇ、僕は遠慮しておこうかな。チョコよりラムネの方がブドウ糖も取れるし、良いからね」
「あははっ、類ってそういうとこあるよねぇ。ま、ボクはそれも含めて類だと思ってるけどさ」
明るく笑う瑞希がひらひらと手を振るからそれに振り返して箱を開ける。
チョコか何かが入っているかと思えばそこには綺麗な字の手紙が入っていた。
「…放課後、図書室で待ってます、か」
それだけで送り主が誰だか分かり、類は肩を揺らす。
今日は素敵な日になりそうだ。


放課後、書かれていた通りに図書室へと向かう。
カラリと扉を開ければいつものカウンターには彼がいた。
「やあ、冬弥くん」
「…神代先輩」
先程まで仕事をしていたのだろう彼がこちらを見て微笑んだ。
「これを贈ってくれたのは君だね?」
「…はい」
手紙を小さく振れば冬弥はこくりと頷く。
「こんな回りくどいことをしなくても、直接言ってくれたら良かったのに」
「…演出家としては、やはりこの方法はなしでしょうか」
笑う類に冬弥がそう問いかけてきた。
少しだけ目を見開き、そうだねぇ、と上を向く。
「地味な演出だけれども、驚きはあるし…僕は嫌いじゃないよ」
「そうですか」
ホッとしたように笑む冬弥が何か小さな瓶を手渡してきた。
「…これ、は」
差し出された瓶には白いラムネと水色と紫の金平糖が入っていて。
「…神代先輩は、ブドウ糖がお好きだと聞いたので」
「ああ、凄く嬉しいよ。ありがとう、冬弥くん」
微笑むと冬弥も良かった、と笑んだ。
本当に綺麗な笑みを見せる子だと思う。
「…ねぇ、冬弥くん。金平糖には、貴方のことが好き、という意味があるのだけれど、これはそういうことで良いのかな?」
「…。…先輩は、どう思われますか?」
くす、と笑って瓶を振れば彼も小さく笑みを浮かべた。
それは、いつもの笑みとは違う、まるで歌っているときのような蠱惑的なそれで。
「…。…僕も演出家として負けてられない、ということかな」
「?あの…ん?!」
首を傾げる冬弥のちいさな口に類は持ってきたそれを押し込む。
咀嚼して彼の中に消えたそれは類が贈る『永遠の愛を誓う証』。
「僕も君が好きだよ。…冬弥くん」
にこりと笑って冬弥に口付けた。
「ふぁ、ん…せん、ぱ…!」
小さく響く甘い声をそっと塞ぐ。

バレンタインのキスの味は、仄かな甘味のマロングラッセ。

演出家である錬金術師によって、図書室のお人形は永遠の愛の味を…覚え込まされた。

name
email
url
comment