ほのぼの彰冬♀

いつもの放課後、いつもの彼女の教室…だったはず…だった。
「おい、冬弥ぁ、帰る…あ?」
「あ、彰人じゃん!」
教室の入り口で声をかけた彰人に明るい顔でそう言うのは彰人たちの音楽メンバーの一人である杏だ。
「?!彰人?!」
「動かない!今いいトコなんだから!」
驚いたようにこちらを向く冬弥に、ぴしゃりと言ったのは瑞希である。
「…なんだ、あれ」
「可愛いでしょ?言っとくけど、冬弥から言い出したんだからね」
どうやら瑞希にヘアアレンジをしてもらっているらしい冬弥を見ながら杏に問えば、楽しそうに笑いながら彼女は言った。
「あ?」
疑問符を浮かべる彰人に、杏はにひ、と悪い笑みを浮かべる。
その笑みと冬弥の焦り具合に、嘘ではないのだろうな、と思った。
彰人としては瑞希に遊ばれているとばかり思っていたのだが。
「…で?何でこんなことになってんだよ」
「彰人、日曜のイベント覚えてる?対戦形式のやつ。皆で出たよね」
「…ああ。珍しくお前らが髪型揃えてきたやつだろ」
杏に言われて思い出したのは、この前のイベントのときの事だ。
普段ツインテールのこはねやストレートな冬弥、少しウェーブかかった杏も、髪型をセカイにいるバーチャルシンガーのミクに合わせてきたのである。
珍しかったからよく覚えているのだが…それがどうかしたのだろうか。
「あの時、冬弥のこと褒めてたじゃん!冬弥ってば、それが嬉しかったみたいでさ、今日も瑞希に頼みに来たんだよ?」
「…は?」
小さな声で言う杏に彰人は思わずぽかんとする。
確かにあの時「いつもの髪も似合ってるけど、それも良いな」と言った。
何気ない一言だったが、まさか彼女がそれを嬉しいこと、と思ってくれているとは。
「…そんな喜ぶならもっとちゃんと言ってやりゃあ良かった」
はぁ、と溜め息を吐き出し、頭を掻けば、きょとんとした杏がけらけらと笑う。
「だったら、今言ってあげれば良いじゃん!」
「…あぁ?」
「出来たぁあ!見てみて弟くん!ボクの最高傑作!素材が可愛いから勿論なんだけど、100点満点に可愛いでしょ?!」
瑞希の嬉しそうな声が響いた。
ずい!と前に出された冬弥がおどおどとこちらを見ている。
何か言いなさいよー!と笑う杏を睨み、少し目を逸らしながら「…まあ、いいんじゃねぇの」とだけ言った。
「えー?!ボクの最高傑作掴まえてどーいうこと?!」
「っていうか、ちゃんと褒めるって言ったくせにー」
「あぁっ、もうっ、うっせーな!」
ぎゃんぎゃんと責め立てる外野に一喝する。
その横で柔らかい笑みを浮かべる冬弥の手を引いた。
ありきたりな言葉でそんな嬉しそうな顔しないでほしい。
先程の文句は何処へやら、騒ぎ出す杏や瑞希から離れる様に彼女を廊下に連れ出した。
「…?!彰人??」
「…お前も。んな単純な言葉で喜んでんじゃねぇぞ」
「…え?」
向き直り、不思議そうな顔の冬弥に言う。
彼女の長い髪に着けられたアクセサリーが揺れた。
「言っとくけど、そんな事しなくてもお前は、その…良いんだからな」
「…!…彰人」
「だから…あー……くそっ、恥ずいな…」
驚いたような冬弥に、何か言ってやりたいのに言葉が詰まる。
ガリガリと頭を掻けば彼女はくすくすと笑った。
「…大丈夫だ。彰人が、良いと思ってくれていることが分かったから」
「…冬弥」
「まあ…少しこの格好も恥ずかしい…。…?!」
ふわふわと笑う彼女を思わず抱きしめる。
飾り付けた冬弥も可愛いと思うけれど…普段の、いつもの表情をする彼女が一番良いと…そう思った。


キラキラと、彼女のアクセサリーが光る。

それだけで…普段の何倍も輝いて見えた。


(普段ですら、冬弥は輝いてるってのにな!!)



「…おいお前達、ここが学校だというのを忘れているのではあるまいな…??」
「ふふっ、仲が良いのは良いことだけどもねぇ」
「…?!司先輩?!神代先輩も!」
「…んだよ。冬弥はオレのだぞ」

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