ザクカイ♀️ひなまつり

3月3日、ひな祭り。
女子の成長を祝う、そんな日に。
不機嫌な顔の女子が一人。


「…ひな祭りは嫌いだ」
「…そう、なのか」
ぶすっとした顔で、随分頑なに言うからザクロは多少なりとも驚いてしまった。
カイコクがこんなにはっきりと『嫌い』を明言するのは珍しい。
「ちらし寿司が食べられるから好きな部類かと思っていたが」
「…俺は、魚が好きなだけだからねぇ。ちらし寿司よりは普通の握りの方が良い。…それより」
首を傾げるザクロに、少しだけ微笑んでみせたカイコクがまた表情を固くさせた。
「人を着せ替え人形みてぇにした挙句色んな人ンとこ連れ回して、やれお嬢様はお人形みたいですね、だの、やれうちの息子のお雛様に、だの。そういうのが煩わしいっつう方がでかくてな」
「…なるほど」
彼女のそれにザクロは頷く。
家では雛人形を飾り、散らし寿司やケーキを作って食べる、くらいしかしたことがなかったが…良い所のお嬢様であるカイコクにとってはまた違ったものなのだろう。
「…別に、構わないんじゃないか」
「…へ?」
「女子を祝う祭り、というだけで別に無理に祝う必要もない。鬼ヶ崎が嫌いならば嫌い、のままでも構わないと…俺は思うが」
「…!!」
ザクロの言葉にカイコクは綺麗な瞳を見開かせた。
それからややあってくすくすと笑う。
長い髪がさらさらと揺れた。
「…な、なんだ」
「いやぁ。…てっきり、親が祝ってくれる行事は受け止めるべき、くらいは言われるかと思ってたんだがねぇ?」
「…あぁ。…俺は、感情を我慢すべきだとは思わないからな。好意に誠実になるべきだとは思うが」
「…なるほど?忍霧らしいな」
楽しそうに笑う彼女を見て、まあ良いか、と思う。
カイコクが、笑っている…ただそれだけで。
「分かったなら食堂に行くぞ。…伊奈葉がちらし寿司とアサリの吸い物を作ってくれている」
「そりゃあ…行かなきゃ損、ってやつだねぇ」
手を差し出せばカイコクは笑ってそれを取った。

1年に1度、女の子のお祭りの日。

お雛様みたいな彼女を嫁に迎えるのは…そう遠くはない未来。



「やはり貴様はきっちり着物を着るほうが似合ってるではないか!美しい!着物女子はこうあるべきだ!このまま俺の元に嫁に来たら良いのに。いや、来ない選択肢はない!なあ、聞いているか?え?カイコクさんよぉ!!」
「…っ!!誰でぇ!忍霧に甘酒飲ませたの!!!」


(頬を桃色に染めたカイコクが、綺麗な着物を脱がされ肌いっぱいに花を咲かせ、やっぱりひな祭りは嫌いだと叫ぶ未来も、また)

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