ホワイトデー類冬

「…やあ、冬弥くん」
「…!神代先輩」
図書室の扉を開けると彼が小さく微笑んだ。
ここで彼と会うのも日課と化してしまった。
…だが。
「…先輩、あの…これ」
冬弥がおずおずと何かを差し出してくる。
シンプルなパッケージのそれは、シンプルが故に可愛さを出すのが難しいんだよ!と瑞希が言っていた店のもので。
「俺のお気に入りの店で買ったコーヒー風味のチョコです。…マカロンと迷ったんですけど、俺が好きなものを知ってほしくて」
「ふふ、ありがとう、冬弥くん。…なら、僕からはこれを」
冬弥からのそれを受け取り、類は微笑んだ。
彼に手渡したのは…スマホサイズのシンプルなコントローラー。
え、という顔をする冬弥に「押してご覧」と促す。
半信半疑、といった様子の彼は言われた通りにそれを押した。
「…ロボット?」
図書室の奥からやってきた小さなロボットに冬弥は首を傾げる。
規則正しく歩みを進めるロボットは手にバルーンで出来た花束を抱えていた。
「ふふ、僕自慢のロボットとバルーンアートだよ。受け取ってくれるかい?」
「…ありがとうございます」
微笑んだ冬弥が受け取ろうと手を伸ばした…刹那。
「?!」
驚く冬弥の目の前でバルーンが割れる。
出てきたのは本物の…12本の赤いチューリップから出来た花束だ。
「…こ、れは」
「勿論、僕の気持ちだよ。…冬弥くん」
目を見開く冬弥に、良い顔をするなあと類は笑みを向ける。
赤いチューリップの花言葉は愛の告白。
そして、12本の花束の意味は。
「…ホワイトデーというより、プロポーズみたいですよ、先輩」
「僕としては、そのつもりなのだけれどね」
くすくすと笑う冬弥にそう囁いてキスをする。
胸に抱えられた、真っ赤なチューリップが小さく揺れた。


君が愛をくれたのだから返さなくては。

もらったものにはお礼を。

もちろん、君にだけ特別、3倍にしてね!

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