ホワイトデーザクカイ♀

「鬼ヶ崎!」
部屋に帰ろうとする彼女を呼び止める。
ふわりと、長い黒髪が揺れた。
「?なんでぇ、忍霧」
「…これを」
疑問符を浮かべる彼女に小さな包を手渡す。
「…こいつァ」
「バレンタインのお返しだ」
「…。…相変わらず律儀だねぇ…」
ザクロのそれに目を見開いたカイコクがくすくす笑った。
一頻り笑ってみせた彼女が、「ありがとさん」と柔らかい笑みを見せる。
「ほう、ヘアゴムかい」
「ああ。以前に髪を纏めたい、と言っていただろう?それに、貴様は甘いものを好まないからな」
目を細めたカイコクにザクロはそう言った。
彼女は甘いものはあまり好きではないらしく、かといってせんべいなどを贈るのもホワイトデーとは違う気がして、結局ヘアゴムになったのである。
梅の花が刺繍された、可愛らしいくるみボタンのヘアゴム。
これならば彼女が着けている鬼の面の邪魔をしないだろう。
「少し、可愛すぎやしないかい?」
「そんなことはない。貴様は充分可愛らしいからな」
「…そんなこと言うのはお前さんだけだぜ、忍霧」
自信満々に言うザクロに、カイコクが呆れた顔をした。
彼女はそう言うが、カイコクは充分に可愛らしいのだ。
…それこそ、嫉妬して【こんなもの】を贈るくらいには。
「…知っているか?鬼ヶ崎。恋人がヘアゴムを贈る、その意味を」
「…ぅ、え?」
くっと彼女の髪を引き、ザクロは見上げる。
恋人にヘアゴムを贈る意味は【束縛】。
誰も見ないで、こちらだけを見てほしい…と。
「…忍霧…?」
「俺だけを見ていろ」
揺れる、綺麗な髪に口付ける。
醜い嫉妬と独占欲を込めて。


彼女はモテるから、これくらいの牽制は許してほしいと、ザクロは笑った。


(ヘアゴムを贈る、意味。

それは、異性からの誘惑に乗らないでという切な願い!)

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