ワンドロ/卒業・キス

「結婚ってさぁ、親からの卒業っていうだろ」
そう、唐突に言い出したのは彰人だった。
言われた方は、何を突然、ときょとんとしている。
今日はセカイで、メイコたちの手伝いをしていた。
倉庫を片付けたいのだと言われてまだこはねや杏が来ていないのもあったから快く了承したのである。
何分、メイコたちには世話になっているし。
倉庫は確かにごちゃついてはいるものの、元々きっちりしていたのだろう、片付ける場所も明確で、これならすぐに終わると思っていたその時だった。
「うわっ?!」
「?!冬弥?!」
奥で片付けていた彼の短い悲鳴とダンボールが落ちてきた音に慌ててそちらを振り返る。
そこには高いところから落ちたダンボールを受けとめきれなかったのかレースカーテンを被った冬弥が、いた。
「大丈夫かよ?」
「…あぁ、なんとか」
レースカーテンの向こうから小さく微笑む冬弥に、花嫁みたいだな、とそっと思う。
「…?彰人?」
不思議そうな冬弥の頬に手を添え、出てきたのが冒頭のそれだった。
冬弥は親を嫌っている。
いや、嫌っていた、というべきだろうか。
幼少よりピアノやバイオリンを与えられ、代わりに自由を取り上げられた彼は、そんな自分は沢山だと親の元から逃げ出して彰人の手を取ってくれたのだ。
そんな彼が親に歩み寄り、少し関係に変化があったのは少し前。
良いことだと思う。
そう、思うのに寂しいのは何故だろうか。
「…ふふ」
「…んだよ」
ぽかんとしていたはずなのに、何となく分かられてしまったのか、冬弥がくすくす笑う。
何となく気恥ずかしくてそっぽを向く彰人に、冬弥が同じ様に手を伸ばしてきた。
「…前の俺なら、彰人と二人きりなら良いと親から卒業もしたがっていたが…今は駆け落ちよりも祝福されたいと、願ってしまうな」
「…ったく、お前が願うならオレは叶えてやりたくなるだろ」
柔らかく微笑む冬弥にかかるレースカーテンをそっと捲り、彰人は唇を寄せる。

幸せを願う彼に、誓いのキスを


「…つか、お前の親父、そーいうの許さなさそうなんだけど…」
「…それは…彰人次第なんじゃないか?」

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