司冬ワンライ・好きな○○嫌いな○○/声を潜めて

「…冬弥の嫌いなところぉ??」
お昼休み、校庭にあるベンチにて。
唐突に聞かれた司は素っ頓狂な声を上げていた。
あまりに意外な質問にそれしか出なかったのである。
ましてその問いをしてきたのは他でもない冬弥自身なのだ。
また何故そんな唐突に。
疑問符を浮かべていれば、冬弥はこくりと頷く。
「はい」
「オレが冬弥のことを嫌いだったことがあったか?」
「…いえ。でも、もし先輩が少しでも嫌だと思うところは直したくて」
首を傾げる司に、冬弥は真摯にそう言った。
全く、彼は真面目で可愛らしいのだから!
「そんな心配をする必要はない!!オレは冬弥の全てが好きだ!嫌いなところなぞ、あるはずなかろう!」
「…司、先輩」
「今も昔も、変わらずにお前が好きだぞ、冬弥」
ニコニコと司は冬弥の頭を撫でた。
少しくすぐったそうにする冬弥は見ていてほっこりしてしまう。
「…冬弥は、オレの嫌いなところはないのか?」
「え?」
そういえば、と放ったそれに冬弥は綺麗な目をぱちくりとさせた。
ないですよ、とでも返ってくるかと思っていた彼の眉がほんの少しだけ下がる。
「…まさか、あるのか」
「…えっと、いや、その」
「あるなら直す!!言ってくれ、冬弥!」
微妙な変化を見逃さず、司は思わず冬弥に詰め寄った。
別に、万人が絶対的に自分を好きでいてほしいわけではないし、自分に欠点がないとは思わない。
だが冬弥は別だ。
大切な恋人な訳だし…彼が嫌だと思うなら直したい。
「…嫌いな、わけではないんです」
「うん?」
「…その……」
もごもごと彼が珍しく言い訳じみた声を出すから、司は思わず首を傾げた。
言いたいことははっきりという質だから物珍しくはあるが…迷うほどに嫌なのだろうか。
笑わないでください、と言った彼が声を潜める。
耳を近づけた司のそこに告げられた言葉。
「…声、が」
「ん??」
「…司先輩の、低い声がドキドキして…その」
「んんん??」
たどたどしく紡がれる言葉は要約すれば、司の低い声…つまり情事の時のそれを思い出させる声が冬弥はドキドキするらしい。
最中を、思い出してしまうから。
嗚呼、なんて可愛らしいのだろう!!
「…冬弥」
「っ?!つ、かさ、せんぱ…?!」
「これくらいの声か?…なあ、気をつけるから教えてくれ」
声を潜め、冬弥の耳に囁く。
パッと口を抑える彼が可愛らしく、少しぞくりとしながら低い声を出した。

冬弥が嫌いだと言うなら直すさ。

嫌よ嫌よも好きのうち、とも言うがな!!



「…司先輩、嫌いです」
「待ってくれ、冬弥!オレにそんなつもりは…冬弥ぁああ!!!」

昼休み終わり、チャイムと共に響き渡る司の声と涙を溜めた冬弥に、様々な憶測が飛び交ったのは…また別のお話。

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