隔週ワンドロ・さくら/ときめき

「彰人、知っているか?桜の木の下には死体が埋まっているらしい」
珍しく空を見上げていた相棒兼恋人の冬弥に、眉を寄せる。
同じメンバーの杏は怖がったりしそうなものだが、彰人は「急になんだよ」と告げるのみだ。
冬弥もそう返されるのは想定内だったのだろう、小さく「やはりそうなるか」と呟く。
「あ?」
「…いや、別に。忘れてくれ」
「ふぅん??冬弥くんは、恋人を実験に何をしようとしてたんですかねー?」
「…彰人」
隠すような言葉にわざとらしく煽れば冬弥は困った顔をした。
やがて、小さくため息を吐き出す。
「…MEIKOさんが」
「ん?」
呟かれた名前は珍しく、彰人は首を傾げた。
てっきり杏や瑞希、バーチャルシンガーであればレンやリンの名が出てくるかと思ったのだが。
「MEIKOさんが、なんだよ」
「…桜は見るだけでもテンションが上がるから、その下での告白は相手をドキドキさせるのにもってこいよ、と」
「…あー…んー…?」
冬弥のそれに納得しかけ、彰人はまた首を捻った。
桜を見てテンションが上がるのは分かる。
薄いピンクのそれが咲き誇る様は圧巻の一言で、少なからず彰人も気分が高揚していたからだ。
彰人はそんな事はないが…例えばクラスの女子なんかは綺麗な桜の木の下で告白されればドキドキもするだろう。
だが、何故冬弥は死体の話を持ち出したのだろうか。
「…だから、桜に絡めて何かドキドキさせるような話を、と思ったのだが…うまく行かないな」
「そりゃそうだろ」
小さく笑む冬弥に、彰人は思わず呆れた。
ドキドキの種類が違うということに、彼は気付いてはいないらしい。
まあそういうところも好きなのだけれど。
「ドキドキっつーのは、こういうのを言うんだよ」
「…え、ん…?!」
目を見開く冬弥を引き寄せ、口付ける。
桜の花びらがひらりと、舞った。
「…ぅ、は…ぁ…」
「…好きだぜ、冬弥」
ぽやりとする冬弥に彰人は囁く。
息を呑む冬弥がふわりと笑った。
「…ズルいな、彰人は」
綺麗な笑みで笑う彼に、思わずどきっとする。
そんな顔も出来るのか、と高鳴るそれがバレないよう、彰人は顔を覆った。


春の風に乗る、心音は。

(さくらと同じ色したときめきの音!)

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