司冬

「まったく、どこに行ったんだ冬弥は!」
きょろきょろと彼を探しながら司は眉を顰める。
もう寝ようかと思っていた司の元にかかってきた一本の電話。
その向こうで冬弥は。
(…泣いていた?まさかな)
小さく息を吐いて司は空を睨んだ。
冬弥が、可愛い可愛い幼馴染兼後輩の冬弥が黒い沼に沈んでいるのなら、放っておくわけにはいかない。
…と、ふと路地の奥に見覚えのあるツートンの髪があった。
「…冬弥!!」
「…!!司先輩?!」
呼びかける瞳に冬弥が驚いたように振り向く。
その目はまるでアルビノうさぎのように赤かった。
「見つけたぞ、何があった!」
「…いえ、何も」
問い詰める司に冬弥は何事もないふりをする。
嗚呼、彼は。
「冬弥。オレは、頼りないだろうか」
「…え?」
司は冬弥の冷たくなった手を握りながら聞く。
きょとりと彼の綺麗な目が瞬いた。
そんな顔を見て司は眉を下げる。
太陽の力を借りて輝く月のように。
冬弥にも司を頼ってほしかった。
何故なら司は先輩なのだから!
(それ以上の感情はバレていると分かっていてなお彼を救いたいエゴイズムと隠した)
えっと、と言葉を紡ごうとする彼の手を引き、司は駆け出した。
「司先輩?!どこに…!」
「港の赤い塔だ!」
慌てたように声をかけてくる彼に笑いながら返す。
胸の鼓動は走っているからだ、と言い訳をして。
「あ、赤い塔?」
「ああ!宇宙旅行は無理だけれどな、地上より高いところなら少しはお前の悩みも軽くなるかもしれないだろう?」
「…先輩」
「なぁに、冬弥が高いところが苦手なのは知っているさ!だから上まで登ろう、なんて無茶はしない。…テトラポットの上だって、立派に高いところ…だからな!」
笑い、司はそう告げた。
夜の海風が頬を撫でる。
これはただの子供騙しだ。
解決にはなりはしないのも分かっていた。
彼が悲しい理由はわからないし、知る必要もない。
だけれども。
「なあ、冬弥。今だけはオレの左手を握っていてくれないか?」
司は前を向きながら言う。
早くなる鼓動がうるさく感じた。
「今日だけは、その手を救い上げる権利を貰うぞ、冬弥!」
司は笑う。
無理した笑みを浮かべる彼に。
冬弥が隠している悲しみが少しでも軽くなれば…それで良いのだから!


いつか、いつか。

お前を連れて重力の外へ!

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