類冬ワンドロ・買い物/汗

「…ふう」
買い物終わり、類は流れる汗をぐいっと袖口で拭った。
5月が春だと言ったのは誰だったろう。
「…まあ、初夏、ともいうから間違いではないのだろうけど…」
独りごちて類は空を睨んだ。
まさかこんなに暑くなるだなんて。
「…おまたせしました、類さん」
と、会計を済ませたらしい恋人の冬弥がスーパーから出てくる。
中くらいの袋を手に駆けてくる冬弥に、類は手を挙げた。
「そっちも持とうか?」
「いえ。…こっちはそんなに重くないですから。…すみません、重い方を持たせてしまって」
「構わないよ。これでも力には自信があるからね」
にこりと笑いかけると彼もふわ、と表情を崩す。
スーパーから出てきたばかりの冬弥からもうっすら汗が出てきた。
視覚の暴力だな、と思う。
冬弥の白い首筋に流れる汗を舐めてみたい、とほんの一瞬脳裏を過ぎったのは時期外れな暑さのせいだと思うことにした。
眠れる獅子ならぬ眠れるにゃんこをわざわざ起こすこともない。
ちなみに、怒った冬弥が普段以上に冷ややかで恐ろしいのも類は身を持って体験済みだ。
「…類さん」
「うん?どうしたんだい、冬弥くん」
立ち止まった冬弥を不思議に思い首を傾げれば、彼が何かを取り出した。
手を伸ばし、出したタオルハンカチで類の流れる汗を拭う。
「…帰ったらシャワー、ですね」
可愛らしく微笑む彼に類は。
嗚呼、こんな日の買い物も悪くはないなと…そう、思った。

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