司冬ワンライ・幼い頃の約束/ジューンブライド

『冬弥!オレと、けっこんしてくれ!!』
小さな司が何かを差し出す。
それを見た、これまた小さな冬弥がきょとんとして戸惑いがちに頷いた。
それを見た司がぱぁあ!と表情を輝かせ、冬弥の手を取り走る。
そして、向かうのはきっと……。


「…また、懐かしい夢を…」 
目覚ましの音で目を覚ました司は小さく笑う。
夢で見たのはまだ幼い司と冬弥だった。
思えば司は小さな頃からこうやって冬弥にプロポーズをしていた気がする。
大概親に止められていたのだけれど。
今日見た夢は…確か12回目のプロポーズだったか。
近くの教会で結婚式をやっていて、それに触発された司が、学校帰りの冬弥をつかまえて告白したのだ。
あの後はどうしたのだっけ、と思いながらふとカレンダーを見る。
もうすぐ6月、ジューンブライドと呼ばれる時期か、と思いながら司は制服に着替えた。
そろそろ学校に行かなければ。


その日の放課後。
「おぅい、冬弥!」
前を歩く可愛い後輩を見つけて司は声を張り上げる。
ふわりと髪を舞わせて振り向いた冬弥が目を細めた。
彼は本当に自然に笑えるようになった、と思う。
笑顔が以前よりもきれいになった。
「…司先輩」
「冬弥も今帰りか?」
「はい。今日は練習が少し遅めなので、一度カバンを家に置いてこようかと。司先輩は…」
「オレは今日は練習がないからな!家で台本でも練ろうかと…む?」
話していた司は何かがふわりと降り注いだのを感じ空を見上げる。
「…これは…花?」
「ライスシャワー…でしょうか」
つまみ上げたそれは白い花で、のぞき込んだ冬弥が小さく言う。
わぁあ!という歓声に二人でそちらを向けば、教会が近かったようで、ウェディングドレス姿とタキシード姿のカップルが出てきた。
「…結婚式、ですね」
「ああ。そろそろジューンブライドだものなぁ」
「そうですね。…幸せそうです」
ふわりと微笑む冬弥の前に司は跪く。
「…?司、せんぱ…?」
「オレと共に幸せになってはくれまいか?」
手を差し出し、何度目かのプロポーズをした。
「…。…ふふっ」
「冬弥?」
「幼い頃の約束、覚えていて下さったんですね」
可愛らしく笑う冬弥がそう言い、差し出した手を取る。
「約束…あ、ああぁあ?!!!」
「…俺を、よろしくお願いします」
冬弥の言葉に記憶を手繰り寄せ、叫ぶ司に彼が笑んだ。
あの時と同じように。


ライスシャワーが降り注ぐ。
ジューンブライドの鐘が、二人の間に鳴り響いた。



『いまはむずかしくとも、オレはまたここで冬弥にプロポーズするぞ!だから、まっていてくれないか!!』

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