類冬ワンドロ・鈴/お守り

「…鈴の音?」
久しぶりに図書室に来ていた類は、図書委員の当番である冬弥から言われた何気ないそれに首を傾げる。
「はい。学校の近くにある神社の前を通ると聞こえるんです。彰人も司先輩も聞こえないらしいので俺の気のせいかもしれないんですが…」
「…ふむ」
少し眉を下げて言う冬弥は心なしか不安そうだった。
他人には聞こえないものが聞こえてしまう、というのはやはり恐怖でしかないだろう。
普段はあまり変わらないそれで、どうしよう、と言外に伝える冬弥に類は小さく微笑んだ。
「…僕は詳しくわからないけれど…もし良ければ、その場所に一緒に行っても良いかな?」
「!はい、よろしくお願いします!」
途端、表情を明るくさせて冬弥が礼を言う。
純粋に、素直だな、と、そう思った。



ここです、と連れて来られたのは何の変哲もない神社だった。
極端にオンボロだったりするのかと思えばそうでもないようだし、参拝者もそれなりにいる気配がする。
「…音、聞こえるかい?」
「…。…微かに、聞こえます。リリン、と…鈴虫のような……」
隣にいる彼に聞けば少し眉を顰めながら言った。
残念ながら類には何も聞こえない。
クラシックをやっていたと聞いたからその弊害かと思ったのだけれど。
ふいに鳥居の方からぶわりと風が吹く。
「青柳くん!」
「…っえ?」
ぼぅっとしている冬弥の腕を慌てて引くと彼は驚いたようにこちらを見た。
「どうしたんだい?ぼぅっとして」
「え、あ、すみません…。一瞬、視界が真っ暗になって…」
「ふぅん?」
曖昧に微笑む冬弥に軽く返し、類は小さな石を握らせる。
「…あの、神代先輩?これは…」
「お守り、とでも言っておこうかな」
首を傾げる冬弥に類はにっこりと笑った。
持たせたそれは決して特別なものではない。
だが、『この神社のものではない』気を持つそれは充分な効果をもたらすに違いなかった。
「さて、帰ろうか、青柳くん」
「え?あ、はい」
「そうそう、あの石はきちんと持っていないといけないよ?」
「…分かりました。では、袋を買いたいので…着いてきていただいても…?」
「勿論だとも!」
可愛らしいデートの誘いに類は頷く。
鳥居を潜りながら…類は内心舌を出した。

(僕の青柳くんに手を出す、なんて許されるわけがないだろう??


例えそれが神様だったとしてもね!)



「神代先輩?あの…」
「ふふ、なんでもないよ、青柳くん」

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