ワンドロ・夢/寝言

「冬弥ぁ、そろそろ終わ…」
部活の助っ人に駆り出された彰人は、今日は図書委員だという冬弥が終わるのを見計らい、図書室の扉を開ける。
言葉がフェードアウトしたのは珍しい光景を見たからだ。
夕暮れの風吹く図書室で。
天使が、寝ていた。


無防備なやつ、と彰人はしげしげと冬弥を見つめる。
寝息も立てないからまるで生きていないような…。
「…生きてる、よな?」
若干心配になりつつ、さらりとした髪に触れようとして…やめた。
冬弥がこんな風に寝ているのは珍しい。
別段、普段から寝顔を見せないとかすぐに起きてしまうとかそういう訳ではないが、そもそもきっちりしているので人がいる時間に寝ていることがまずないのだ。
好きなミステリー小説を読んでいて寝不足、くらいなら良いのだけれど。
「…オレには頼れ、とか言うくせに」
ふっと笑って彰人はこの前冬弥から言われたことを思い出していた。
自分一人で突っ走ろうとした彰人を、冬弥は「俺のことも頼ってほしい」と言って止めたのである。
彰人は俺を救ってくれた、今度は俺の番だ、と言って。
まったく、この相棒には敵わない、と彰人は笑った。
そこまで言われてしまえば手を伸ばすしかないではないか。
そう思いながら、嫌な気はしなかった。
寧ろ少し楽になったような、そんな。
…と。
「……あきと…おぅじ……」
「なんつー夢見てんだよ」
綺麗な形の口から紡ぎだされる寝言に思わず吹き出す。
珍しくファンタジーものでも読んだのだろうか。
起きているときではなかなか聞けない言葉に、王子て、と肩を揺らした。
…どんな夢をみているのだか。
「…」
小さく笑い、幸せそうに眠る冬弥に再び手を伸ばした。


夢を共に追いかける相棒が、今はただ幸せなユメを魅ていられます様に。



「…ん、……あ、きと…?」
「よぉ、起きたな。…オレの姫?」

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