司冬ワンライ・衣替え/肌

今日は暑い。
ダラダラと流れ出る汗を、司はタオルで拭う。
まったく、梅雨はどこに行ったのだろうという思いがこみ上げては、文句を言っても仕方がないか、と諦めの気持ちと共に消えていった。
…それにしても。
「半袖になったはずなんだがなぁ…」
タオルを仕舞いながら司は独りごちる。
制服は長袖から半袖への移行期間になっていた。
所謂、衣替え、というやつだ。
少し涼しさを感じても良いはずなのだが…それでも暑いのは何故だろう。
「…司先輩!」
「ん、おお、冬弥…か…」
後ろから声をかけてきた可愛い恋人に笑顔を向けようとして…司は固まった。
駆け寄り、カバンの中から取り出した薄手のパーカーを着せる。
「?あの、先輩?」
「夕方は冷えてくる。着ていると良い!」
首を傾げる冬弥に司は言った。
白い首筋から流れる汗と、半袖から伸びるほっそりした腕。
目の毒でしかなかった。
「まだ夕方ではないですが…」
「冬弥の肌を晒すわけにはいかんだろう!!」
「…!!」
困惑したような冬弥に、司は真剣に言う。
目を見開いた彼はきゅ、とパーカーの前を握った。
「…それは、その」
「まあ、なんだ。独占欲…だな。格好悪い話ではあるが」
「そんなこと無いです。…ありがとうございます、司先輩」
ふいと目線をそらす司に冬弥は礼を言い、僅かに微笑みを浮かべる。
「…司先輩は、やはり先輩でしたね」
「うん?どういうことだ?」
「いえ。…少し肩幅が余るので…」
ほら、と見せてくる冬弥は、なるほど、着せたパーカーが少し大きかったのだろう、所謂萌え袖になっていた。
「ほう。身長は冬弥の方が高いからサイズ的にはあまり変わらないと思ったが…。これでは余計に暑いな。すまない、冬弥」
「いえ。…司先輩の匂いがして、嬉しいです」
「?!」
表情を緩める彼にどきりと胸が高鳴る。
肌が赤くなるのはきっと暑さのせいではなかった。
「あまり先輩を煽るんじゃあない…!!」
「え?あの…?」
頭を抱える司に冬弥がきょとんとする。
衣替えしたばかりの半袖シャツに、流れた汗が染み込んだ。


(夏はもうすぐそこに!)

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