司冬ワンライ・電話/空

「はぁ…」
清々しい空を見上げて司はため息を吐く。
今日は汗ばむような陽気で、雲一つない快晴だ。
夜は星もきれいに見えるだろう、と休憩中にちらりと見たスマホには流れていた。
それなのに司の心中は晴れなくて。
『司くーん、そんなに浮かない顔してどうしたのー?』
「…うん?…おお、レンか」
スマホからひょこりと顔を出したのはバーチャルシンガーの鏡音レンだ。
まだ少年らしく、無邪気で愛らしい姿も目立つ。
『ショーは成功したんだよね?なのに…』
「…成功したからこそ、だ」
首を傾げるレンに司は息を吐き出した。
司たちはフェニックスワンダーランドの存続をかけ、大規模なショーを行ったのである。
カクカク云々は省くが、それは大成功も大成功、物語なら大満足の大団円で終わったのだ。
それは良い。
宣伝大使として各地でショーを行うことになったのもスターとしては当然のことだ。
ならば何故こんなにも元気がないのか、といえば。
「…冬弥に会えない…」
小さく零したそれは忙しいからこそ、だった。
学校以外は前以上にショーに費やすことになり、可愛い恋人に会えない日々が続いているのである。
冬弥もライブやイベントで忙しくしており、前よりすれ違うことが増えていたのだ。
会えなければ逢いたい気持ちは増すばかりで。
どうしたものかと考えに耽っていたのだった。
『なぁんだ、司くんらしくない』
「…レン?」
『直接会えないなら会いに行けば良いじゃない』
「いや、だからな…?」
『きっと、セカイに来るより簡単だよ!!』
レンが笑う。
ああ、そうか、と司はセカイと繋ぐスマホを手に取った。

「あれ?司くんの声がした気がしたんだけど…」
「カイト!…えへへ、青柳くん、良い子だったからさ、ボクも笑顔になってほしくて!」




小さな電子音の後に、はい、という冬弥の柔らかい声が耳に届いた。
「もしもし、冬弥か?!久しぶりだな!」
『司先輩。お久しぶりです。お元気でしたか?』
「ああ!もちろんだとも!冬弥は?体調を崩したりしていないか?」
『はい。お陰様で。…それで、どうされたんですか?』
優しい声に、司はスマホを持ち変える。
ああ、と笑ってみせた。
「冬弥の声が聴きたくなったんだ!」
素直に答えれば、そうですか、と言う声が聞こえる。
『…俺も、聴きたかったです。先輩の声』
「冬弥?」
『知り合いにも、手段があるなら連絡しても良いんじゃ、って言われて。でも、迷惑になるかと思って、取り敢えずメッセージを送ったんですが…既読になる前に電話がかかってきたので、驚きました』
「メッセージ?」
冬弥の言葉に首を傾げ、通話にしたまま司はメッセージアプリを開いた。
そこに現れたのは『司先輩を思い出しました』という文字と1枚の画像。
慌てて空を見上げ、写真を撮った。
「…オレも、冬弥と同じものを共有しているぞ!!傍に居なくとも、な」
司の声に、笑みを含んだ『はい』という声が耳に届く。
何となく、幸せだなぁと思った。


画像欄に並ぶ、空の写真。
それは

(一番星が煌めく、夏の特別な1ページ!)

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