ビビバスレンカイ

「レン、何聞いてるの?」
「あ、カイト」
声にふと顔を見上げて「ただいま」と言う。
それに、「お帰り」って微笑むカイトに今日もオレは癒される訳で…。
このやり取りもなんだか日常化しちゃったよな。
今まですーぐふらふらどっか行ってたカイトからお帰り、なんてさ。
嬉しいようなむず痒いような。
「レン?」
「えっ、あっ、何でもない何でもない!」
カイトが首を傾げるのにオレは取り繕うようににへらっと笑った。
流石にこれを言うのは恥ずかしいし!
「そう?ならいいけど。…で、何聞いてるんだい?」
「ああ、これ?彰人たちから貰ったんだ。今度ライブで歌う歌なんだって。聞く?」
イヤホンを片方外してカイトの方に差し出す。
すると嬉しそうな表情をしたカイトが「いいの?」と近づいてきた。
ソファ席に腰掛けたカイトにイヤホンを手渡す。
「有り難う」
にこっと笑ったカイトがオレとは違う耳にそれを嵌める。
「音大きくない?」
「うん、大丈夫。…結構激しいねぇ」
「その前が割とゆったりした感じだから緩急つけるって言ってたよ。ほら、カイトも一緒に歌ってた曲」
苦笑するカイトに笑ってそう返すとカイトも「うん、それだと良い流れだね」と笑った。
それからこういう曲にはどんなDJが合うかも教えてくれる。
やっぱりこういうセットリストとかDJとか考えてる時は真面目なんだよなぁ。
普段はちゃらんぽらんなのに。
…って。
「…カイト?」
「ん?」
見上げると、カイトが悪戯っぽく微笑んだ。
「何してるの」
「何って…。うーん、レンの耳たぶ触ってる?」
オレの質問に首を傾げながら言うカイト。
くそっ、可愛いけど!可愛いけどさぁ!!
「なんで耳たぶ触ってるのさ」
「気になっちゃって」
「は?何が?」
不審に思って聞くと、ちょっと顎に指を当てて上を見たカイトがにこっと微笑む。
「耳たぶって、柔らかい方がえっちなんだって」
「…へぇ、そう」
「後、唇の硬さと同じって言うのも聞いたことあるよ」
「…誰に聞いたの、それ」
にこにこと笑うカイトにオレは引きつりながら聞いた。
どうせ彰人とか杏とかあの辺がうっかり話してたんだろうけど!
まさかカイトからオレにそういう話題振られるとは思ってなかった…っつか…。
…話が頭に入らねぇ…。
「ふふー、内緒」
「なんだよ、それ!」
上機嫌のカイトに怒って見せるけど…。
何今日のカイト。
めっちゃ可愛いんだけど!
え、これ襲っていいのかなダメだよね?!!
耳たぶの硬さがどうこうは知らないし、バーチャルシンガーは人間とはまた違うとは思うけどさ!!
…あー、うん、曲に集中しよ…。
楽譜を見ながリズムを取ってると、ふとカイトの視線を感じた。
もしかしてカイト暇なんじゃ…。
「レン」
皆の曲が流れる耳とは違う方の耳に、カイトの声がダイレクトに聞こえたと思った次の瞬間、その唇が触れる。
「…っ、ちょ、カイト?!!」
ばっと耳を押さえて見上げると、カイトは妙に勝ち誇った顔してた。
「何?」
にこにこと微笑むカイトには何も言えない。
…くそー…そろそろ限界なんですけど?!!
「…レンの鈍感」
「…へ?」
「何でもないよ」
ぽかん、とするオレを置いて、カイトがイヤホンを外して立ち上がろうとした。
…へえ、鈍感?オレが??
ああ、なんか、うん。
抑えてた理性が、切れる音が聞こえた…気がした。
「…え、うわぁ?!!」
ぐ、と腕を引いてソファに押し倒す。
「…随分言ってくれるじゃん?」
「…レン?」
引きつった笑顔を見せるカイトににっこりと笑いかけた。
「誘ったんだから最後まで責任とって貰わないとー」
「は?ちょ、ここでかい?!!待ってメイコに怒られ…!」
あ、珍しくカイトが焦ってる。
可愛いけど逃がさないよ?
本気になったオレをあんまり見くびらないで貰いたいね。
ね、カイト。


…面白半分で誘うとオレを痛い目に遭うよ?
もう子どもじゃないんだしさ!




誘われたから乗りました




後で文句を言っても遅いんだよ



だってそれは、不可抗力って言わない?






「そいやさー、結局誰に教えて貰ったの」
「え?あぁ、冬弥くんだよ?」
「へー…。…マジで?!!!!」

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