司冬ワンライ・キス/身長差

突然だが、青柳冬弥は身長が高い。
…それは、恋人である司よりも、だ。
冬弥は高校1年生、対して司は高校2年生である。
「…何故だ」
ぶすっとしながら司は呟く。
遺伝、と言ってしまえばそれまでだけれど、それはそれとしてなんだか悔しかった。
「…あれ?どーしたの、お兄ちゃん」
「ん、おお、咲希か」
キョトンとした声に振り向けば妹の咲希が何やら雑誌を持ってこちらを見ていた。
「何か悩みごと?」
「いや、まあ…。…咲希、その雑誌は?」
「あ、これ?実は友だちがアイドルやっててね!」
咲希の持っているそれについて聞けば彼女はぱぁっと顔を明るくさせた。
楽しそうにする妹を見るのは司も嬉しいが…今回はそれよりも。
「…この雑誌は昔の時の…。…お兄ちゃん?!」
「…そうか、これだ!!」


咲希に雑誌を見せてもらい、司は作戦を練りに練った。
…つもりだったのに。
「…はぁ」
司はため息を吐く。
雑誌には【モデル女子もキュンしたい!身長差彼とドキドキキスシチュエーション♡】とあった。
それを見て冬弥とのキスシチュエーションをいくつか考えてきたのに…だ。
シチュエーションを作るどころかなかなか彼と会わないのである。
普段はもう少しエンカウント率はあるのだが。
「会いたい時には会えないものだな…。…ん?」
小さく呟いた時、少し向こうの階段で冬弥を見つけた。
やっと会えた!という想いから思わず「冬弥!」と大声を出す。
「…え、司せんぱ…?!!」
「っ?!危ないっ!」
振り向いた冬弥が足を踏み外したのか視界から消えそうになった。
思わず駆け出し、既で腕を掴んだ。
バサバサと彼が持っていた本が落ちる。
「危なかった…。大丈夫か?冬弥」
「…は、はい…。ありがとうございます」
掴んでいた腕を離し、司はほっと息を吐いた。
「あー、本が落ちてしまった。傷んだりしなければ良いのだが」
「すぐに拾えば大丈夫かと…。…司、先輩?」
二人して階段を降り、屈み込む。
顔を上げた瞬間、彼の顔が目の前にあった。
思わず引き寄せ口を寄せる。
本の影に隠れてちゅ、と響くリップ音。
「…ふむ、なるほど」
「え」
ほんの少し耳を赤くさせた冬弥を見、司は笑う。


身長差なんて関係ない。
だって。
(座ってしまえば関係なくなるのだから!!)

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