類誕生日

「…神代先輩」
柔らかい声に類は振り向く。
そこにはすらりとした身長の彼がこちらを見つめていた。
「おや、青柳くんじゃないか。…どうしたんだい?」
にこりと笑って聞けば彼はほんの少し下を向く。
真面目な彼は見た目以上に分かりやすく、類はすぐに彼が何かを隠しているのだろうな、と気づいてしまった。
「…書庫の蔵書整理をするんです。今まで外に出ていない本を出すので、良ければ、と思ったんですが…」
「…へぇ、蔵書整理…ね」
こちらを伺うような冬弥に、類は笑う。
行かせて貰おうかな、と言えば彼はホッとした顔をした。
「では、放課後図書室でお待ちしています」
ぺこりとお辞儀をする冬弥に類は笑顔で手を振る。
彼の姿が見えなくなってから、さて、と類は先程とは違う笑みを浮かべた。
彼がどんな秘密を持ってくるのか、と思いながら。



「うん、なかなか興味深かったよ。ありがとう、青柳くん」
「いえ。お役に立てて良かったです」
図書室を出て類は笑む。
それを見た冬弥も表情を緩めた。
鍵をかけた彼が職員室に行くというので着いていくことにする。
結論から言えば類はまだ秘密を教えてもらってはいなかったのだ。
何か話でもあるのかと思ったのだけれど、彼からそんな話はなく、ならばと帰ろうとすれば引き止められたのである。
何をそんなに迷うことがあるのだろう。
「おまたせしました、神代先輩」
「ふふ、構わないよ。じゃあ、帰ろうか?青柳くん」
「はい」
頷く冬弥に、類は少なからず驚いた。
学校で会うということに意味があると思ったのだけれど。
学校を出てから他愛もない話をしながら歩く。
最近読んだ本の話、司の話、彰人の話、ショーの話、ライブの話…。
冬弥との話はいつもそれなりに楽しかったけれど、秘密の核心を突くものではなかった。
「…それじゃあ、僕はここで」
「…」
「青柳くん?」
「え、あ、はい!」
名前を呼べば冬弥が慌てたように返事をする。
普段はそんなこと無いのに、どうしたのだろう?
「ふふ、まだ僕と話したいのかな?なんて…」
「…そう、ですね」
「…え?」
冗談めかして言った類のそれは冬弥に肯定されてしまった。
思わずきょとんと彼を見る。
「…先輩さえ良ければ…」
「…。…いいよ。僕の家に来るかい?」
「…!はい」
誘う類に冬弥はほわ、と笑った。
「その前に、僕に何を隠しているか聞いても?」
「…!あ、の」
慌てる冬弥の手を逃さないように握る。
にっこりと笑い掛ければ彼は観念したように息を吐いた。
「…誕生日プレゼントです」
「うん?」
「神代先輩が誕生日だと…聞きましたので」
「…ああ。そういえばそうだったね」
すっかり忘れていた、と言えば冬弥はほんの少し表情を崩す。
「司先輩や、草薙、暁山から色々情報をもらって彰人からもアドバイスしてもらって。先輩が好きなものを用意したんです。ですので、良ければ…と」
「嬉しいねぇ。それは何なのか聞いても良いかい?」
「それは…後のお楽しみ、です」
そう言った冬弥が類の口の前で自身の人差し指を立てた。


爽やかな風が吹く



存外小悪魔な恋人に


類はショーで感じられなかったドキドキを感じていた


(それは恋人から贈られた、特別な誕生日プレゼント!)

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