類冬ワンドロ・水筒/水たまり

昨日は大雨が降った。
大抵雨の後は晴天と決まっていて、今日も御他聞に漏れず…これまた極端に雲一つない。
ふう、と息を吐き、空を見上げた。
雨の日の後は緑化委員の仕事も捗るというもので、類はせっせと雑草を抜いていたが…少し張りきりすぎたかもしれない。
「…神代先輩」
柔らかい声に類はふり仰いだ。
空とはまた違う青色が目の端に映る。
「おや、青柳くんじゃあないか」
こんにちは、と言えば彼は僅かに微笑んだ。
「こんにちは。…あの、もし良ければこれ」
「おや、水筒かい?」
「はい。中身はただの麦茶ですが」
「いただこうかな」
にこりと笑えば彼もはい、と表情を緩める。
渡されたそれの蓋を外し口をつけた。
喉を滑り落ちる麦茶は暑さに疲れた身体を癒やしていく。
よく冷えたそれは瞬く間に空になった。
「美味しかったよ。ありがとう」
「いえ。…すみません、俺の飲みかけで」
「全然構わな…ん??」
水筒を返しながら言えば彼は申し訳なさそうな顔をする。
それに笑顔を向けようとして…類は固まった。
今、彼はなんと?
「…青柳くん、これ…君の飲みかけ、なのかな?」
「は、はい。やはり嫌でしたか」
「そんなことはないよ!…嫌なはずないだろう?」
勢い良く立ち上がり、驚く彼に詰め寄る。
踏み出した足がパシャンと水たまりを踏んだ。
ミルククラウンが出来て一瞬で壊れる。
「え、でも」
「その、なんだ…君は僕との間接キスは嫌ではないんだな、と」 
「…。…?!」
類のしどろもどろなそれに冬弥は初めて気付いた、と言わんばかりに目を見開いた。
「い、嫌では…ないですよ?」
「…君はそういう子だったねぇ」
小さく首を傾げる冬弥に類は息を吐く。
え、と驚いたような灰色の瞳に金の瞳が写りこんだ。
水筒がゆっくりと傾く。

水たまりに2人の姿が反射し…一つになった。

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