ワンドロ・歌/プロポーズ

冬弥が司の代役で結婚式のエキストラをすることになった。

やる気である冬弥とは違い、彰人はかなり心配していた。
歌なら何も心配しないのに、と彰人はため息を吐く。
何だってこんなことを。
「…彰人?」
綺麗な声に呼ばれてふり仰ぐ。
そこにはスーツ姿の冬弥が首を傾げていた。
「おぅ。…練習は?終わったのかよ」
「ああ。演技プランは理解したからな。後は反復するだけだ」
小さく笑む冬弥に、そーかよ、と返す。
すると冬弥は少し俯き、意を決したようにこちらを見た。
「…彰人」
「あ?」
「彰人なら、プロポーズする時どんな曲を歌う?」
真剣なそれに思わずぽかんとしてしまったが、すぐ思考を戻す。
きっと演技プランの一部なんだろうその質問に、疑問は浮かぶが頭を振った。
「…そりゃあまあ、定番の恋の歌とかじゃねぇの?」
「…。俺はあまり詳しくないのだが…」
「オレも詳しくねぇよ。…ま、相手に気持ちが伝わるなら、何でもいいんじゃねぇか」
困惑した様子の冬弥に彰人は笑う。
「…。…彰人なら、俺よりもプロポーズする相手役に向いていそうだな」
ふわ、と微笑む冬弥の、綺麗な髪をくしゃりと撫でた。
「ばぁか、オレはお前に捧げる用の歌しか用意してねぇっつぅの」
「…!彰人」
「さっさと振られて帰って来い」
彰人なりのプロポーズを込めて彼に言う。
意地悪く笑う彰人に、冬弥は幸せそうに微笑んだ。


Je n'ai pas de regrets
Et je n'ai qu'une envie
Près de toi là tout près
Vivre toute ma vie


綺麗な歌声が式場に響く。
周りが感嘆を漏らすのを、流石はオレの冬弥、と聴いていた…意味はよく分からなかったが。
「おや」
傍に来ていた、今回のショープランナーである類がくすくす笑う。
いつも通りではあるが、何となく気に入らなかった。
「…なんスか」
「いやぁ、東雲くんは愛されているんだなぁと思ってね」
不機嫌な様子を隠そうともしない彰人に、類は笑う。
冬弥が歌うそれ。
出番の前、類に「花嫁ではなく、彰人に向けて歌いたいです」と小さく微笑んで言っていた曲。
そのタイトルは。

(Je te veux)

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