司冬ワンライ・コンビニ/スマイル

「新装開店しました!クーポンも付いているので良ければ…む、冬弥!」
チラシを配りながら笑顔を振りまいていた司は少し向こうに可愛い恋人の姿を見つけ、ぶんぶんと手を振った。
「司先輩…?!その格好は、一体」
「ああ、これか?」
駆け寄ってきた冬弥は、司の姿を見て驚いたらしい。
それはそうだろう、司は有名コンビニチェーンの制服を着ていたのだから。
だが、司は事も無げに笑う。
「知り合いがな、チラシ配りの人が足りないと言うので急遽手伝う事になったんだ!その分の給料は出ると言うし、何より困っている人は助けなければ、スターの名が廃るというものだろう?!」
「…司先輩らしいです」
どや、とキメ顔で言えば冬弥は小さく笑んだ。
優しい表情に司もふっと顔を緩める。
「そうだ、冬弥も来てみないか?丁度このチラシが最後だ」
「…良いんですか?」
「もちろんだとも!…ほら、コーヒーの割引クーポンも付いてるぞ!」
「ありがとう御座います」
小さく笑った冬弥が司の差し出すチラシを受け取った。
「コンビニコーヒー…初めて飲むかもしれません」
「何?!なら、オレが教えてやろう!」
「助かります」
お礼を言う冬弥はいつもよりも何だか嬉しそうで、司はふと首を傾げる。
「どうした?なにか良いことでも?」
「…いえ。司先輩がいつもと違うので」
「…?それは、良いことなのか?」
「はい。…とても、格好良いです」
ふわ、と笑う冬弥が眩しく、司は思わず目を細めた。
素直な冬弥にこちらの方がドキドキしてしまいそうだ。
「そうか、格好良いか!ありがとうな、冬弥!…そうだ、冬弥も着てみないか?」
「…え?」
笑って見せ、良いことを思い付いた!と司は提案する。
きょとんとする冬弥の手を引き、コンビニまで連れて行った。
仕事が終わったことを伝え、ささっと着替えるから、とバックヤードに冬弥を入れることに成功する。
「さ、オレが着た後だが」
「…ありがとう御座います」
私服に着替えながら制服を冬弥に手渡した。
少し戸惑いがちに受け取った彼は逡巡したものの素直に袖を通す。
「いかがでしょうか?」
こてん、と首を傾げ、聞く冬弥はたいそう可愛らしく、こんな店員なら毎日通ってしまうな、と思う。
だが。
「彰人には、俺はあまり笑わないから接客は向かないと…。…先輩?」
「…まあ、そうだな」
冬弥の言葉に司は頷く。
彼の、極上の『スマイル』を見るのは司だけで良いと。
可愛らしい冬弥の『スマイル』がコンビニ如きで買えるものか、と。
司は笑う。
自分の前で可愛らしく笑う恋人に。
(冬弥の向ける『スマイル』は自分だけのものと知っているのだけれど!)
「こんな可愛らしい店員は、オレが買い取ってやらんとな?」





「先輩、凄いです!コンビニで本格的なコーヒーが!」
「…お前は本当に可愛らしいなぁ……」

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