ワンドロ・パーカー/試着

彰人に私服を見繕ってほしい。
冬弥からそう言われて馴染みの店ではなく大型のショッピングモールにしたのはあまりに己の好みに全振りするのはどうかと思ったからだ。
着て欲しい服と好みのファッションはまた別だ、というのもある。
…冬弥の好みもあるだろうし。
「んで?どんなんをご所望なんだよ」
「…今あるジーンズと合わせやすいものが良い。後は夏でも無理なく着こなせるもの、だな」
「んじゃま、トップスと…薄手のパーカーとか良いんじゃねぇの?」
少し考えて言う冬弥に彰人は言う。
色や形など細かく聞き、いくつか見繕った。
そのまま購入はせず、試着室に向かう。
「着替えたら呼べよ」
「ああ、分かった」
カーテンが閉じられ、小さく息を吐いた。
ライブに出る時の服は彰人が選ぶ事が多い。
舞台上で冬弥をより良く魅せるためだ。
冬弥の、歌やパフォーマンスを輝かせるように。
だがこれは私服だ。
彼が普段遣いで着るための。
「…彰人」
「…ん、着替え終わったか?」
と、カーテンが開けられ、冬弥が顔を出した。
ワンポイントが入った白いTシャツと7部袖の落ち着いた色をしたパーカー。
Tシャツの襟が少し大きめに開いているのは…冬弥が無意識に選んだものだった。
息苦しさから逃げたい表れなのだろうか。
「?何かおかしいか」
「んや。よく似合ってるぜ。着づらい感じとかはねぇ?」
「ああ。大丈夫だ」
頷いた冬弥がくすりと笑う。
なんだろうかと思えば彼はパーカーを少し肌けさせた。
「…裏地、彰人の色なんだ」
「…はっ?!」
「なんだか彰人に包まれているみたいだろう?」
綺麗な笑みで言う彼が試着室に引っ込む。
その場にはぽかんとした彰人だけが残された。



揺れる、試着室のカーテン。

開けた後の冬弥の表情は…。


(彰人だけは、知っている)

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