類冬ワンドロ・水遊び/朝顔

最近特に暑い。
ホースを持ち、緑化委員が世話をする花壇に向かって水を撒きながら、類は息を吐いた。
水滴光る朝顔はキラキラしていてなんだか羨ましいほどだ。
そういえばえむが「ワンダーステージ☆夏のびしょぬれシャワーショーとかどうかな?!」と言っていたっけ。
司や寧々は嫌そうな顔をしていたがこんなに暑ければミストくらいなら何とかならないだろうか。
もう少し、水圧を上げてもっと水流を細かくすれば…あるいは…。
「…神代先輩」
もう少し軌道を柔らかいものにして…そうすれば…。
「神代先輩!!」
「…っ、え」
ぶつぶつ呟きながら考え込んでいた類は急に呼ばれて慌ててそちらを向いた。
…ホースを、持ったまま。
「…っ?!わっ…」
「?!青柳くん!」
案の定というか当然の結果というか類の持ったそれから噴射された水は目の前にいた冬弥を直撃した。
無防備な冬弥に容赦なく降り注ぐ。
すぐにホースを置き、水を止めた。
「すまない。少し考え事をしていてね。…大丈夫かい?」
「…はい。…教室に戻れば着替えもありますし…」
タオルを差し出せば冬弥は、すみません、と受け取る。
その姿は何だか嬉しそうだ。
「…水遊びのようで、楽しいです」
「君が楽しいなら良いけどね」
くすくす笑う冬弥の髪を拭いてやる。
「先輩は、緑化委員ですか?」
「ああ。朝顔の水やりをね」
「…朝顔」
冬弥が小さくつぶやき、表情を崩した。
お揃いだな、と呟く冬弥に類も笑う。
「そういえば、七夕近くに開花時期が来る朝顔は牽牛花から転じて織姫花とも呼ばれるらしいよ」
「…なら、神代先輩は彦星ですね」
楽しそうな冬弥に、類は「彦星は嫌だなぁ」と言った。
1年に一回しか冬弥に会えないのはごめんだ。
朝顔の花言葉のように、類は冬弥と共にいたいのだから。


水滴がキラキラと光る。
行こうか、と手を差し出す類に、はい、と冬弥が握り返した。



今日も熱く暑い1日が、始まる。

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