七夕ザクカイ♀️

「じゃー、今年の織姫はカイさんってことで!」
ユズのそれに、はぁい!と元気に手を上げるのはカリンとヒミコである。
当の本人はなんだか渋い顔だ。
「…なぁ、やっぱ嬢ちゃん方がやるべきなんじゃ…」
「だ、ダメですよぅ!」
「そうですよ!!だってじゃんけんで決まったでしょう?」
おずおずと言うカイコクに不満の声を上げるヒミコとカリン。
どこか楽しそうなのはいつもは猫のように逃げてしまう彼女を合法的に着飾れるからだろう。
「どんな柄がいいかしら」
「色も…少し明るめの方が良いですよねっ!」
「…」
きゃいきゃいと話すカリンとヒミコを横目にカイコクは小さく息を吐いた。
「なんだぁい、カイさん!織姫より憂鬱そうな顔して!」
「…ったく、他人事だと思って」
にこにこと肩を叩くユズに、カイコクはブスくれた表情をする。
「おや、そんなに織姫になるのが嫌なのかい?そんな変わった衣装でもないし、変わったことをするわけでもないのに」
カイコクの表情に、ユズは意外そうにしてみせた。
ゲノムタワーの七夕まつりは至ってシンプル、じゃんけんにて選出された織姫と彦星に自分の書いた短冊をつけてもらうのだ。
短冊は自分で付けなければ意味がないような気もするのだが…そこはそれ、何かしらのイベントが無ければつまらない。
「べぇつに織姫になるのは問題無いぜ?格好だっていつもと変わんねぇし。ただなぁ…相手が……」
「相手ぇ?…あー、なるほどにゃ」
少しどもるカイコクに素っ頓狂な声を上げながらもすぐに理由に思い当たったのだろう、悪い顔をした。
「ザッくんが彦星じゃないか心配してるんだろー!ニ人は仲良しだからにゃー!」
「あぁ?…寧ろ逆だ」
「ん?」
ふわ、と髪を揺らして言うカイコクにユズは首を傾げる。
「忍霧が彦星なんてたまったもんじゃねぇ。織姫なのだから真面目にしろ、とか言われかねねぇからな」
「そりゃあ…」
「残念だったな、鬼ヶ崎。俺はその役目にはなれなかったようだ」
はぁ、と息を吐くカイコクに何か返そうとしたユズを遮ったのは当の本人であるザクロだ。
「…忍霧」
「おや、そっちも彦星が決まったのかにゃ?」
「ああ。うちはマキノくんが彦星になった」
「…あー…一番マシなトコだな」
ザクロのそれにカイコクは少し上を向き苦笑いを浮かべる。
アカツキやアンヤに比べ、マキノはカイコクのいつもと違う格好を見てもやいのやいの言わないし、きちんと彦星の役目を果たすに違いなかった。
その辺りはユズも同意見だったのだろう。
「あはは。あっきーはグイグイくるし、アン坊はカイさんをイジり倒すだろうから、ま、無難ちゃあ無難かな。マキマキはストレート褒め殺しだけど、それだけだし」
「それも問題ではあるんだけどな…」
笑うユズにカイコクはそう言う。
ただ、すぐ気持ちを切り替えたようでザクロに対して首を傾げた。
「んで?お前さんは何しにここへ?」
「彦星の役を伝えに。後は、仕事を果たして貰いに、な」
綺麗な髪を揺らすカイコクに、ザクロは何かを押し付け、元来たところに足を向ける。
意外そうにユズが立ち去るザクロを見送った。
「へぇ、ザッくんのことだから、カイさんの相手役は譲らないと…おりょ?カイさん?」
笑いながら言うユズは彼女を見上げ、返事がないことに疑問符を浮かべる。
…だが。
耳を紅く染めるカイコクに、小さく笑い、行こうぜ!と今宵の織姫の腕を引っ張った。


笹の葉に吊るされない、誰かの願いは織姫にしか届かない。

織姫を奪いたいのは、彦星だけじゃあなかったってね!!!



(お星様キラキラ、堕ちる相手は誰の元?)

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