類冬ワンドロ・カレー/短冊

さて、突然だが、神山高校で校内キャンプが行われることになった。
スポーツでも有名な神山高校では宿泊施設が併設されている。
そこを特別に借りることが出来たのだ…理由は後ほど語るとして。
「ねー!お肉まだ切れないのー?」
「あー??今やってるっつーの!!」
「おぅい!笹を貰ってきたぞ!!」
ぎゃーぎゃーと言い合いながら調理をする1年生組のところに来たのは司と類だ。
肩には巨大な笹が抱えられている。
「うわぁ、凄いですねこれ!!」
「よくこんなおっきい笹あったよねぇ」
「…ちょっと二人とも、笹持ったまま入ってこないでよね」
持ってきた笹を目の前に楽しそうなのは杏と瑞希、少し眉を顰めるのは寧々だ。
「わかっている!彰人!冬弥!少し手伝ってくれ!」
「あぁ?なんでオレが」
「…彰人。わかりました、すぐに行きます」
嫌そうな彰人を窘めた冬弥が頷き、駆け寄った。
「ふふ。手伝ってくれたお礼に、君には最初に短冊を書く権利を与えてあげようかな」
にこにこと笑うのは類である。
「お、いいな、それ。冬弥!好きなものを書いて良いぞ!」
「あぁ??冬弥をそっちに引き込むんじゃねぇっつー…」
それに司が便乗し彰人が嫌そうな顔をした。
冬弥が楽しそうに肩を揺らす。
エントランスホールの柱に笹を括り付け根本に水を含ませたティッシュを巻いて口を切ったペットボトルに刺した。
字で書けば簡単だがこれがなかなか難しい。
この作業をするから、と彼らは宿泊施設の利用が許可されたのである。
もちろんこの後の飾り付けも込みだ。
「いよっし!設置はできたな。短冊はどうする?見られたくないなら今書くのも有りだが」
「…オレはみんなと一緒でいいッスよ。今書いてもうるせーし」
「確かにな。類と冬弥はどうする?」
「僕も後で良いよ。青柳くんは?」
「俺も、みんなと一緒に書きます」
「なら調理室に戻るとするか!」
「そうですね。彰人、この後の工程だが…」
司の言葉に頷いた冬弥が彰人に何か確認し、また類の傍に戻ってくる。
「どうしたんだい?青柳くん」
首を傾げると冬弥はほんの少し声を潜めてみせた。
「いえ。先輩がどんなお願いをするのか…気になりまして」
「そうだねぇ。まだ考えられてはいないけれど…。そういう青柳くんは何か決まっているのかな」
にこっと笑うと冬弥は少し上を向く。
それから僅かに微笑んだ。
「今の俺は色々恵まれているし、これ以上は特にないんですが…強いて言えば」
そう言った冬弥が綺麗な笑みを浮かべる。
それを見て、嗚呼やはり彼には敵わないと…そう、思った。

「神代先輩が俺の作ったカレーを食べてくれますように、でしょうか」



笹の葉さらさら、揺れる願いは類の努力で叶うそれ。

可愛い可愛い恋人のお願いを、聴いてあげられる彦星になるべく類は覚悟を決めたのだった。


「…東雲くん、今日の夕飯なのだけれどね…」
「今日の野菜は冬弥がサラダ分含めて全部切ってましたよ、覚悟決めてください」
「…そうだそ、類。冬弥を悲しませるわけにはいかないからな………」

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