ワンドロ・放課後/瑞希

「はぁ?放課後デートぉ?」
教室に彰人の素っ頓狂な声が響く。
そう!と力強く言うのは瑞希だ。
「弟くんなら、放課後デートの何たるかを知ってるかと思ってね!」
「…知らねーよ…。放課後に遊びに行くことじゃねぇの?」
「そんなの、友だちとでもできるじゃん!」
わかってないなぁ弟くんは!と言う瑞希に「弟くん言うな」と彰人が突っ込む。
「大体、女子は友だちと遊びに行く場合でもデートとか言うじゃねぇか」
「まあ…。…じゃあどこからどこまで放課後?」
「…あ?」
次なる瑞希の疑問に彰人は首を傾げた。
唐突に何を、といった顔である。
それに、説明しようと瑞希が口を開いた…その時。
「彰人、遅くなっ…暁山?」
カラリと教室の扉が開き、冬弥が顔を出した。
きょとんとした彼はカバンの他に分厚い本を持っている。
「あ、やっほー冬弥くん!委員会早かったね」
「ああ。今日は議題も少なかったからな。…それで…?」
「そうそう!弟くんと、放課後デートについて話してたんだけどさ。はぐらかすばっかりでなかなか教えてくれないんだよー!」
「いや、それはお前が放課後がどこからどこまで、とか良く分かんねぇこと言うから」
「えー?分かるよねぇ?」
文句を言う彰人に瑞希はけらけらと笑った。
「何故そんな話に?」
「実は、絵名から今度放課後デートしよって言われたんだけど二人とも学校終わりって時間がバラバラなんだよね」
「絵名…ああ、彰人のお姉さんか」
「そ。ほら、ボクは学校にたまに来るだけだけど、一応は夕方が放課後じゃん?でも絵名は夜間コースだからさぁ」
あっけらかんと説明する瑞希に、彰人は眉を顰める。
聞けば、「身内のデート事情聞くのは誰だってやだろ」らしかった。
まあ、そうだろうな、と瑞希は軽く謝る。
それだけで、まあ良いけど、と溜飲を下げる彰人は存外優しい男のようだ。
流石は絵名の弟、というべきだろうか。
「つぅか、別に無理に放課後に行かなくたっていいだろ。絵名なんか多分お前が授業終わるまで寝てるぞ」
「まあそれはそうなんだけどさ。放課後、に行くのがいいんじゃん!つっらーい勉強が終わってさ、ちょっとコンビニでお菓子買ったり最近出来たカフェ行こー、とか、カラオケ行ったりとか、ちょっと買うものあったーってアクセ見たり、ほら、今だったら夏祭り用の浴衣見たりとかさぁ!」
「…いやもうそこまで行くなら普通に休みの日に買いに行けよ」
呆れたような彰人に、瑞希はビシッと指を突きつける。
「分かってないなぁ、弟くんは!」
途端、彰人は嫌そうな顔をした。
だが瑞希は気にしない。
「はぁ?」
「放課後はちょっと見て目星をつける、その後改めて約束をして一緒に買いに行くのがいいんじゃん!」
力説すればするほど彰人は冷めるようで、頭を掻いた。
「…分かんねぇよ」
「もー、それでも絵名の弟くんなの?」
「…。…2人が放課後と思えば放課後なんじゃないか」
「おい、冬弥」
「…続けて?」
「例えば暁山の授業終わりも暁山にとっては放課後だろうし、二人の放課後にしても店は開いていないだろうがインターネットカフェで行きたい店を二人で調べる、というのも…デートにはならないのだろうか」
何やら2人に加わらず真剣に悩んでいた冬弥がそう言う。
真面目な放課後デート考察に瑞希も思わず唸ってしまった。
確かにその考えはなかったのだし。
「うん、ありがとね、冬弥くん!なんか分かった気がする」
「そうか、良かった」
礼を言う瑞希に、ふわり、と冬弥が表情を崩す。
「お礼に何か奢るよ!コンビニとかどう?」
「俺は自分の考えを述べただけだ、礼には及ばない。…それに…」
「それに?」
誘う瑞希を断った彼が何か含むように言うから瑞希は首を傾げた。
「これからデートなんだ。…すまない」
申し訳なさそうに冬弥が笑む。
その前では冬弥との『デート』、なわりに嫌そうな彰人がいた。
開かれているのは学期末テスト範囲の教科書と、真っ白なノート。
瞬時に、ああ、なるほど、と理解した。
「んじゃー、また今度、だね。ごゆっくりー」
ならばここにいることもない、と瑞希はひらりと手を振り教室を躍り出る。
…別に馬に蹴られる趣味もないわけだし。
「…まーでも、今度お祭りとかに誘って見よっかな」
くす、と笑い、瑞希は駆け出した。
教室を出る前の、恨めしそうな彰人を思い出しながら。

放課後、二人きりでお勉強デート、なんてボクは羨ましいと思うけどね!
(特権を取っちゃう気はないけどさ!)

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