パンツの日

そういえば知ってました?と声をかけてきたのはアカツキだった。
にこにこと微笑む彼の、この問いかけは大概ろくなものが無い。
画して今回もそれは当たっているようだった。
「今日はパンツの日なんですって!」
「…あまり大声で言うと路々森が大変なことになるぞ、入出」
唐突なそれに吹き出しかけたが何とか耐え、冷静を保ちながらそう言う。
「んー?ボクがどうしたんだい?ザッくん」
「…路々森」
よっ、とやって来たユズに、ザクロは嫌な顔をした。
それを意に返さず笑顔を振りまき、アカツキが口を開く。
「あっ、ユズ先輩!今日はパンツの日なんですよー!」
「うん、まさかあっきーからそれを聞くとは思わなかったな!」
あはは!と笑うユズにアカツキは胸を張った。
…何をそんなに威張ることがあるのかはよく分からなかったが。
「俺も健全な男の子ですので!」
「うんうん!そう言われちゃあ何も返せないな!」
楽しそうなユズが、そうだ、と思い出したような顔をする。
「そういやザッくん、カイさんが呼んでたぜ」
「…珍しいな、鬼ヶ崎から俺を呼ぶとは」
言われたそれにきょとんとし、ザクロは席を立った。
礼を言い、彼女の部屋に向かう。
そこで何が待っているかも知らずに。
「…あれ、カイコクさん、今お風呂じゃあ…」
「…それを言うのは野暮ってもんだぜ?あっきー」



トントン、と彼女の部屋をノックするがうんともすんとも聞こえなかった。
何か悪いことに巻き込まれているのでは、と不安になったが…どうやら杞憂だったらしい。
…何故なら。
「…?忍霧?そこで何してんでぇ」
「鬼ヶ崎?」
キョトンとした声に振り向いた。
そこには長い髪から滴を落としながらも不思議そうに首を傾げるカイコクがいたのである。
「何をしている、はこちらのセリフだ。貴様が呼んだんだろう」
「はぁ?俺が?お前さんを??なんでまた」
心底不思議、と言った表情のカイコクに、ザクロはようやっとユズに騙されたと知る。
「…路々森…」
「……。…まあ、どんまい?」
呟かれた名前だけでザクロがユズに騙されたことが分かったのだろう、カイコクが曖昧な笑みを浮かべながらザクロの肩を叩いた。
「…ああ。…すまない、邪魔をした」
「んや、別に何も…ふゃあ?!」
「は?…うわっ?!!」
自室に帰ろうとしたザクロを、カイコクの聞いたこともない素っ頓狂な声が引き止める。
振り向いたザクロにカイコクが倒れかかってきたのは一瞬のことで。
「…いっ…」
「…う…いた…」
凄まじい音とともに2人は倒れ込む。
すい、と何かが通り過ぎる気配が…この感じはパカメラだろうか…した。
「…わりぃ…」
「…いや……」
素直な彼女には流石に怒れず、起き上がりながら視線を下げる。
着崩れた浴衣の隙間から見える黒いレースの…。
「鬼ヶ崎、裾!浴衣!!」
「へ?あ」
思わず声を上げて指摘する。
首を傾げた彼女も気づいたのだろう、にやりと笑った。
「…忍霧のえっち」
「…はぁあ?!!」
ちら、と浴衣を捲り、悪い顔をするカイコクに、ザクロはマスクの下を真っ赤にさせ、声を上げる。
「ま、お前さんがむっつりスケベなのは分かっちゃいたが…うわっ?!」
「…ほう?」
楽しそうに笑い、ザクロの上から退こうとする彼女の手を引いた。
そこまで煽られると男の名が廃るというもので。
「…あの、忍霧サン?」
「貴様が煽ったのだから、それなりの覚悟はあると理解して良いんだろう?鬼ヶ崎」
「待て待て悪かった、悪かったって…!」
ひく、と笑みを引きつらせるカイコクを自身の部屋に連れて行く。
パタン、と閉まったドアの先で、パンツが役に立たないくらい濡らされる未来は…後どれくらい?

(それは二人と、踏まれ残されたパカメラだけが知っている)

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