類冬ワンドロ・怪談話/きゅうり

「…怪談話…ですか?」
きょとんとする彼に類はにこりと頷いた。
「今度、お化け屋敷も絡めたショーをやるつもりなんだけど、文献は読みあさってしまってね。良ければ君が知っている話を教えてほしいのだけれど」
そう言えば冬弥は少し考えて困ったように微笑む。
「すみません。俺が詳しいのはミステリーなので…ホラーはちょっと」
「そう…それは残念」
「…逆に、神代先輩はそんな話はないんですか?」
首を傾げる冬弥に、今度は類が上を向いた。
「うーん…。…あ、そうだ。母の友達が話していた、オチも意味もない話なんだけれどね…」
そう、類は話し出す。
「その人がまだ実家に住んでいた頃、家の洗濯機が壊れてね。母親が車でコインランドリーに行ったんだが、かなりの量があったから家の中に運び入れるのに迎えに出たんだそうだ。その際少し早かったのかまだ母親は到着していなくてね。彼女は家の前をフラフラしていたんだそうだ」
どこにでもありそうな話に冬弥は少しきょとんとしていた。
まあそんな反応にもなろう。
「暇だなぁと思っていた時、カタン、と音がした。風か何かだろうと目を向けると斜め前の家の駐車場に人影が見えたそうだ。少し近づくと気のせいかシルエットが歪んで見える。顔もなんとなくぼやけて見えて、なんだろうなぁと思いつつ会釈したんだそうだ」
「…え」
「彼女は所謂社畜だったからね、久しぶりの連休で数時間前まで寝ていたし、脳がまだ疲れてたんだろうと思った。ホラーゲームも好きだったからそれの見過ぎかもしれない、とも思いつつね。その後すぐ母親が帰ってきたから荷物を受け取ったが…ものの数秒、次に見た時その人はいなくなっていたんだそうだよ」
にこ、と類は両腕を広げた。
これで終いだとポーズで示す。
「…その方はそれ以降何もなかったんですか?」
「さあ?特に何も聞かなかったけれど…大丈夫じゃないかな」
微笑むと冬弥はホッとした顔をした。
あまり表情には出ないが怖かったらしい。
…と、奥の方でカタン、と音がした。
振り向く冬弥の…肩にちょん、と指を置く。
その、瞬間だった。
「?!!」
「っ?!青柳くん、大丈夫かい?!」
びくっとした彼が数センチ跳び上がり怯えた顔を見せる。
まさかそんな反応だとも思わず、すぐに類は謝った。
「…すまない、青柳くん。まさか君がそんな、怖がるだなんて…」
「…いえ。俺も…自分がそんな驚くとは思ってなくて…」
謝罪する類に冬弥も曖昧に微笑んだ。
珍しいな、と類は彼の頭をなでた。
まるで、背後にきゅうりを置かれた猫みたいだな、なんて思ったりして。
へちょりと猫耳がへたれたように見えるのは気のせいだろうか。
驚かせた猫はアフターケアしてやらないと、と類は微笑んだのだった。


(怪談話も二人にかかれば何のその


ねぇ、知っていた?幽霊はリア充は苦手なんだって!)

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