司冬ワンライ・暑い日/麦茶

「…ふう」
司は汗をぬぐってから伸びをした。
今日はショーの練習日だったのだが、あまりに暑いから少し早めに切り上げようと解散したのである。
夕方なのに…尤も、西陽は一番暑いというが…流れ出る汗が止まらなかった。
「…ん?」
小さな公園を横切ろうとしたところで、司は聞き覚えのある歌声に足を止める。
覗き込めば幼馴染で後輩、かつ恋人の冬弥が歌の練習をしていた。
仲間たちはいないから、今は自主連中なのだろう。
歌が終わるのを待って、司は公園に足を踏み入れた。
「…司先輩?」
「やはり良い歌声だな、冬弥!」
拍手しながらそう言えば冬弥は少しはにかみながら「ありがとうございます」と言う。
「司先輩は…ショーの練習、でしたか?」
「ああ。だがあまりに暑いから、明日の早朝に集まることにして今日はもう解散することにした。ダラダラやっていても効率は良くないからな」
「…そう、ですね」
小さく笑む冬弥は息を吐き出した。
細い首筋からは僅かな汗だけで、司は首を傾げる。
「冬弥、お前は暑くないのか?」
「…え?…わっ」
きょとん、とした冬弥の手を引いた。
いつもはひやりとした冬弥の肌が熱を帯びていて、司は目を丸くする。
「なっ、熱いではないか!」
「…あまり、汗をかかないタイプみたいで…」
「まったく、熱中症になってしまうぞ!!」
困った顔の冬弥の手をそのまま引っ張り、司は木陰のベンチに座らせた。
持っていたバッグから水筒を取り出す。
「麦茶だが飲むと良い」
「…え、でも」
「?麦茶は嫌いだったか?」
「いえ。…先輩の分が無くなってしまうのではないかと…」
おずおずという冬弥に、司は気にするな!と笑った。
「オレはもう帰るだけだからな!寧ろ空になった方が有り難い!」
「…では、お言葉に甘えて」
微笑んだ冬弥が水筒の蓋を開け、口へと運ぶ。
こくん、と喉が上下するそれは扇情的に見えて。
夏の暑さのせいだろうかと司はタオルで汗を拭う。
「ふははへんはい?」
不思議そうな様子の冬弥が、モゴモゴと口を動かした。
中に入っていた氷まで口に含んでしまったのだろう。
噛めば良いものをどうすれば良いのかわからない、というようにしているから、司はぐいっと手を引いた。
そのまま口づけ、冷たい口内に舌を入れる。
びく、と震える冬弥に可愛いな、なんて思いながら氷を自分の口内に入れた。
口を離し、大分小さくなっていたそれを噛み砕く。
盗み見た冬弥の表情が僅かに紅かったのはきっと夏の暑さだけではなくて。
肩を震わせながらも、司は「今日は特別熱いな!」と笑いかけたのだった。



(麦茶の中で、まだ入っていた氷がカランと音を立てた)

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