ワンドロ・買い物/おねだり

ふわり、と目の前を通り過ぎたレンの「蒼い」イヤーカフが揺れた。
レンはこんなもの付けていただろうか。
「?」
視界に入ったそれの違和感に首をかしげ、彰人は、おい、と呼び止める。
「?どうしたの、彰人」
振り向き、こてりと首を傾げるレンに向かってそれ、と指を差した。
差された方は不思議そうな表情をしたもののすぐに、ああ、と笑う。
「カイトがさぁ、どうしてもお揃いが良いって言うから」
返された単純明快なそれに今度はこちらが首を捻った。
「同じものをさ、身につけていたいんだって」
「へぇ、またなんで」
「さあ?でも優越感ってのは分かった気がするなぁ」
「うん?」
小さく笑うレンに疑問を返そうとすれば向こうから「レンー!」との声が聞こえる。
振り向けばレンと同じ『黄色い』イヤーカフをしたカイトが駆けてきた。
「あ、彰人君だ。来てたんだね、いらっしゃい」
「おぅ、どーも」
挨拶をしつつ、どうしても耳元が気になった。
「カイトばっかりずるいからさ、オレもおねだりしちゃった」、とレンが耳打ちしてくる。
優越感、なるほどなぁと思った。


それから。


「久しぶりだな、彰人と買い物に来るのは」
「まーな。今度ライブもあるし、良いだろ」
くすくす笑う冬弥を連れて彰人はアクセサリーに来ていた。
彼と揃いのものがどうしても欲しかったためである。
別にレンとカイトが羨ましかったわけでは…ないけれど。
結局選んだのは銀のイヤーカフにオレンジの宝石で装飾をされたそれだった。
華美な装飾品ではなし、何より耳が良い冬弥が歌の邪魔にならないのが良いと思ったのである。
自分用に同じ…銀で碧のイヤーカフがあったのも決め手だったし。
「…ふふ」
「…。んだよ」
「…いや、俺も…レンやカイトさんが羨ましいな、と思っていたんだ」
嬉しそうに冬弥が笑んだ。
「おねだりする前に叶えられてしまったな」
「…。…おねだりするってタマかよ、お前」
「…そうだろうか?」
呆れたように言えば冬弥が首を傾げる。
そんな彼の発言に、今度はこちらが首を傾げれば、冬弥は小さく笑った。
「…これでも、分かりやすくねだって甘えていると思っていたが」
機嫌の良い冬弥に彰人は息を吐く。
オレにしか分かんねぇよ、と小さく言えばまた彼は笑ったのだった。


綺麗な耳にきらりと光る。
ツートンの髪の下、彼がつける己と揃いのそれは。


(   欲の証)

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