ワンドロ・紅葉/写真

こはねが紅葉の写真を撮ってきた。
上手いもんだな、と眺める彰人を他所に凄い凄い!と杏は盛り上がっている。
「今度みんなで一緒に行こうよ!実際に見た方が綺麗だし」
「いいね!外で歌うのも楽しいし!」
こはねのそれに杏が同意し、彰人が「またお前らは勝手に…」と呆れた。
存外いつもの光景である。
…と、いつも以上に大人しい冬弥が気になった。
「…冬弥?どうかしたか?」
「…え?」
声を掛ければ写真から目を離してきょとんとする。
どうやら、集中して魅入っていたらしい。
「なんかあったのか」
「…いや、上手に撮るにはやはり練習とコツがいるんだろうな、と」
「んだよ、写真撮りてぇのか?」
冬弥のそれに今度は彰人がきょとんとすれば、杏と盛り上がっていたこはねが「私で良ければ教えようか?」と声をかけてきた。
「そうしてもらえると助かる」
「うん!まかせて!」
「冬弥が写真撮りたいなんて珍しいねー。見せたい人でもいるの?」
「…セカイは、季節が変わらないから…写真だけでも、と」
杏の問いに冬弥が微笑みながら答える。
そういえばセカイは季節も変わらないから知らないことがたくさんあるんだとレンが言っていたっけ。
「それ良いね!写真をたくさん撮って壁1面に飾れば紅葉狩りの気分も味わえるし」
「そーかぁ?」
はしゃぐ杏に、彰人は首を傾げる。
そーいうもんなの!と言う杏にこはねと冬弥がくすくすと笑った。
「じゃー予定決めなきゃね!…っと、その前にお店の準備だけしなきゃ」
「あっ、私手伝うよ!」
慌ただしく杏とこはねが去っていく。
騒がしい奴ら、と見送る彰人に、冬弥はまだ写真を見て小さく笑みを浮かべていた。
「…そんなに楽しいかよ、紅葉の写真」
「ああ」
頬杖をつく彰人に、冬弥が頷く。
まさかそうくるとは思わなくて彰人はきょとんとした。
続けてくる冬弥のそれに目を見開く。
まったく、彼ときたら。
「惹かれてしまうのかもしれない。…紅葉は、彰人の色だから、な」
「…お前はー…っ!」
「彰人?…わっ」
照れた顔を見せたくなくて思わず冬弥の頭を撫でちゃくる。
不思議そうな冬弥にそっと囁やけば、彼もほんの少しだけ紅葉色に頬を染めた。
「…。…冬弥を紅葉にやる気はねぇよ」



秋が来る。


綺麗に染まった紅葉を連れて。


紅葉も二人には負けちゃうよねぇ、なんて女子の笑い声が店に響いた。

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