ハロウィンザクカイ♀

本日はハロウィンですので、とパカが言った。
だからといってそんなテロ行為が許されるのだろうか。
『性転換薬入りのお茶を飲んでいただきたい』
そう、言われ全員大人しく飲んだのはそれがゲームの一環だったからだ。
そうでなければ一蹴していただろう。
特に、この男に関しては。
「…なんで、俺が」
ブスくれた表情で頬杖を付く男…いや、今は女だろうか…鬼ヶ崎カイコク。
可愛いから良いじゃないですか、とフォローにもなっていない言葉をかけるのはこれまた性別が変わったカリンだ。
「えー、カリリンが格好良くなっちゃったー!」
「不満なんですか?ユズ先輩」
「べっつに不満じゃないけどさぁ」
首を傾げるカリンと口ではそういうものの感情を隠しきれないのだろうユズを尻目にザクロは息を吐き出す。
「…鬼ヶ崎」
「……なんでェ」
「…そう怒るな」
あからさまにブスくれたカイコクにそう言えば、じっとりとした目をして、ザクロの服を指でちょいと引いた。
「…お前さんが傍にいねぇのに?」
「…う……」
「性転換してから3時間、やっと近づいてきたってぇのに?それでも怒るなって??」
上目遣いで睨むカイコクに、ザクロはたじたじだ。
ただでさえ女子は苦手である。
元は男子だと分かっては…いるのだが。
ものの見事に性転換薬入りのお茶を引いてしまい、女子になったカイコクは、ハロウィンとのことで何故か仮装させられていた。
胸が強調されたナイトドレス…ミニではないのが救いだろうか。
「…悪かった」
「悪かったと思うなら、きちんとエスコートしてほしいもんだねぇ」
はっ!と鼻で笑いこちらを見るカイコク。
実は、このゲーム、続きがあった。
性転換した人が相手役を選び、その人とハロウィンパーティに出て踊ること。
二組とも合格して初めてゲームクリアとなる。
ちなみにダンスの出来は合否に影響しないようだ。
そんなことをされれば一生クリア出来ないだろう。
そんなところばかり優しくて、ザクロは息を吐いた。
「分かった。俺も覚悟を決めよう。…『お手をどうぞ、お嬢さん?』」
指示書に書いてあったそれを読めばカイコクは差し出した手にそれを乗せる。
ヒールを履いても自分とそう変わらない身長に、何か違和感を覚えた。
「…歩きにくい」
「我慢をしろ。…掴まっても良いから」
眉を顰めるカイコクにそう言う。
少し歩く練習をしていたとはいえ、やはり歩きにくいものなのだろう、蹈鞴を踏むカイコクに腕を出した。
「ん、どうもな」
迷い無くザクロの腕に細い腕を絡ませるカイコクに、元は男だと言い聞かせる。
そうでなければ逃げてしまいそうだった。
「…忍霧」
「……なんだ」
「…今日はハロウィンだな」
「…そうだな」
音楽が流れ、向かい合わせになり、足をぎこちなく動かしていればカイコクがそう言う。
小さく笑ったカイコクが腕を持ち上げ、ザクロの首に回した。
「TRICKorTREAT?」
くす、と小悪魔的に笑うカイコクに、一瞬固まったものの、それを解く。
そうして。
「俺はTRICKもTREATもいらん。…鬼ヶ崎がいれば、別に構わないからな」
「…!」
そう言うザクロを目を丸くして見つめた。
それから、ふは、と笑う。
ザクロが好きな…笑顔で。
(この笑顔はいつでも変わらないのだな、なんて思ったりして)
「…存外欲張りだねぇ、お前さんも」
楽しそうに笑うカイコクと、ふわふわ揺れるいつもより長い髪。
ゆったりしたワルツが2人を包んでいた。


「…しかしこれ、性転換してまでするようなハロウィンのイベントだったかねぇ……」
「…言うな、それを」

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