司冬ワンライ・ハロウィン/トリック・○○・トリート

今日はハロウィンだ。
かぼちゃ色のワンピースやら、黒のビニール袋と白のガムテープで作ったであろう骸骨やら、こだわったものからチープなものまで、様々な仮装をした子どもたちがワンダーステージ前を楽しそうに駆けていく。
「お兄さん、トリック・オア・トリート!」
「おお、よく来たな!ほぅら、お菓子だぞ」
「わぁ、ありがとう!!」
嬉しそうな子どもたちに手を振り、司は追加のお菓子を補充しに裏に戻った。
せっかくのハロウィン、そして休日ということもあってフェニックスワンダーランドでは来てくれた子どもたちにお菓子を配っているのである。
「司先輩」
「おお、冬弥!すまないなぁ、手伝ってもらって」
お菓子の籠を手に下げ、ふわりと微笑む冬弥に、司は眉を下げた。
それに冬弥が首を振る。
「いえ。俺も楽しいですし…。…あまり、経験がないものですから」
「そうか。そういえば冬弥の家はハロウィンはあまりしていなかったなぁ」
ほんの少し寂しそうな冬弥に、司も当時を思い出した。
冬弥の家はハロウィンよりもピアノやバイオリンの稽古の方が大事だったようで、知識としてはあったものの彼はハロウィンをやったことがなかったのである。
今日は冬弥の方も練習もイベントもないというから、来てもらったのだ。
貰う側ではなく配る側だが…どうやら冬弥も楽しんでいるようで司は安心する。
「冬弥、そっちのお菓子を取ってくれないか?」
「はい、良いですよ、司先ぱ…」
「あー!騎士のお兄ちゃん、ちゃんとトリック・オア・トリートって言わなきゃだめなんだよー!」
突如鋭い子どもの声が聞こえて2人はそちらを見た。
魔女の衣装に身を包んだ子どもがこちらを…というか司を睨んでいる。
どうやらステージ裏まで入り込んできたようだ。
どうにかして外に出さなければ、と司は黒猫の耳をつけた冬弥の手を取る。
え、という顔をする冬弥をお姫様抱っこし、そして。
「はーっはっはっはぁっ!!例えお菓子をくれたとて、オレの悪戯を止めることはできぬぅ!!」
「司先輩?!」
「騎士のお兄ちゃんずるーい!」
「トリック・イエット・トリート!小さき魔女よ、オレの悪戯を止めたければ自力でオレに追いついてみせるのだなぁ!」
驚く冬弥と怒れる幼女に宣言し、司はマントを翻しながら走り出す。
バラバラとお菓子が辺りに散らばった。

今日はハロウィン。

可愛らしい恋人に、公然といたずらが出来る日!

(貰えるならばお菓子より甘いお前が良い!)

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