類冬ワンドロ・衣替え/屋上

ひゅうっと秋風が吹く。
随分と冷たくなったそれに、類は冬物を出してきて良かったと思った。
まだ厚手のコートを出すような時期ではないけれど、それでも、こと屋上は寒いのだ。
「…神代先輩」
「おや、青柳くん。…用事なら連絡をくれれば行ったのに」
キィ、と音がして聞き馴染みのある声が届く。
類がにこりと笑ってそう言ったのは、冬弥が高いところが苦手だと知っているからだ。
「いえ。…特に用事はなかったんです」
「うん?」
「先輩と…秋を感じてみるのも良いかと思って」
小さく笑う冬弥に、類もおや、と笑った。
「別に紅葉や夕焼けが綺麗に見えるわけではないよ?」
「夏とは違う風を感じることが出来るのも秋ならでは、ですよね」
柔らかい笑みの冬弥に、敵わないねぇ、と肩を揺らす。
「ココアを持ってきました。…宜しければ」
「では遠慮なく。…僕からはこれを」
彼から缶を受け取った類はその肩に自分のマフラーをかけてやった。
冬弥も冬支度で上着は着ていたが首元が寒そうだったから。
せっかく綺麗な声で歌うのだ、喉を冷やしてはいけないだろう。
「…!ありがとうございます」
ぱちくりと目を瞬かせた冬弥は、ふわ、と嬉しそうにマフラーに顔を埋めた。
理性を総動員させ、類はココアの缶を開け口をつける。
甘ったるい味が類を包んだ。


二人の様相も衣替え。


柔らかい秋風が熱い二人の間を吹き抜ける。


屋上に冬弥がいるのもまた新鮮だなと、そう思った。

(それは秋の新たな風物詩!)

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