ポッキーの日

今日はポッキーの日だ。
そういえば去年もそれで盛り上がっていたな、とぼんやり思う。
「…なぁ、忍霧ー?」
甘えたような彼女の声。
振り向けば負けだ、と思いながらちらりとそちらを窺った。
細い指で摘まれたのはポッキーだ。
左右に軽く振りながら首を傾げるカイコクは、どうやらポッキーゲームをしたいらしい。
甘いものは苦手なくせに、と思いながら無視をした。
反応すれば煽られるに決まっているのだから、無視するが吉、なのである。
…だが。
「なーあー。おーしーぎーりーぃ?」
今日のカイコクは如何せんしつこかった。
普段はここまで無視すれば諦めるのに。
「…」
「…なーあー?」
「…。…なんだ」
根負けし、目を落としていた本を閉じて振り向いた。
ぱあっと顔を輝かせた彼女が、ん、とポッキーを咥える。
「…何のつもりだ、鬼ヶ崎」
「ほっひーへーふ」
ため息を吐きながら聞けば簡潔に答えられた。
行儀が悪い、と言いかけてやめる。
聞いたのはそっちだと怒られるのは目に見えているからだ。
だから。
咥えられたそれを取り上げ、ザクロは彼女を引き寄せる。
「なにすっ…んんぅ?!」
文句を言いかけるカイコクの、無防備な口内を貪り、弱いところを擽って、音を立てて離れた。
「は、ぁ…ぅ……」
「…。…キス、したければ言えば良かったろう」
「…!!!そ、ういう問題じゃねぇだろう…?!!」
珍しく顔を赤らめて反論するから、他に何かあるだろうか、と思いながらまた顔を近づける。
拒むことないカイコクに、やはりキスしたかったのだな、なんて笑って。
ザクロはそっと口付けたのだった。


ポッキーの日、なんて口実でしかない。

素直じゃない彼女からの、隠されたキスの誘い!





「そういえば今日は鮭の日らしいぞ、鬼ヶ崎」
「何?!なんで早く教えてくれなかったんでぇ!」
「なぜ俺に当た…分かった、悪かった」

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