彰人誕生日

誕生日だから、何かがあると思っていた。
練習をするから、とセカイに行った彰人を出迎えたのはリンとレンの焦った声。
「…あー!彰人くん、もう来ちゃったの?!」
「いらっしゃい、彰人!オレのリフティング、見てよ!」
「あぁ?…練習終わったらな」
何となく、準備が終わってないのだろうな、とは思ったが、素直に着いていくのも癪なのでカフェのドアノブに手を伸ばす。
二人が止めるのも無視してその扉を開けた。
中では凡そ予想通りの光景が広がっていた…のだが。
「あれ、もう来ちゃったんだ」
「こんにちは、東雲くん」
中には杏とこはねが待っていて、思わず顔を顰めた。
「…何やってんだよ……」
「いやぁ、彰人の好きなものといえば!ってみんなで考えたら一致しちゃってさぁ」
「…ったく、こはねも止めろよ」
「ごっ、ごめんね、東雲くん!青柳くんがいいよって言ってくれたから…」
あはは!と笑う杏と申し訳なさそうなこはね。
…そうして。
「…冬弥」
「…俺も、これしか思いつかなくて…な…?」
こてりと首を傾げる冬弥の両腕にはリボンが巻かれている。
髪には左右それぞれに水色とピンクのリボンが揺れていた。
本人が良いなら別に良いのだが…簡単に遊ばれてんな、と突っ込もうとしてやめる。
彼がとても幸せそうな顔をしていたから。
「誕生日おめでとう、彰人」
微笑む冬弥に頭を掻く。
何か飲まされたんではなかろうか、と勘ぐってしまう程にぽやぽやする冬弥に、彰人は息を吐いた。
「…受け取ってはもらえないだろうか…?」
少し心配そうな彼の、頭を撫でる。
「俺は、彰人のものになるなら幸せなことだと思ったのだが」
「…お前なぁ…。…冬弥は、物じゃねぇだろ」
「…え?」
きょとんとする冬弥を抱き寄せた。
驚く彼に囁いてやる。
「…冬弥は、オレの最高の相棒、だろうが」
「…!…ああ」
嬉しそうに微笑む冬弥に頷き、よっと抱き上げた。
「?!彰人?!」
「ま、せっかく『プレゼント』として頂いたんだ、大切にしねぇとな?」
珍しく焦る冬弥にいたずらっぽく笑う。


せっかくプレゼントされたのだ。


一生をかけて大切にしてやる、と…決めた。


(プレゼントの方が幸せになるなんて、という彼に、プレゼントが幸せならオレも幸せだよ、と笑ったりして)


お誕生日様が一番嬉しいプレゼント、その名は?



「…やっばい、あれフェイクだよって言いそびれちゃった」
「…あ、杏ちゃん……」

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