SeeYouMyJK!

ホントにそれは「常識」?ホントにそれは「当然」、「当たり前」?
「正義」に偽装された「悪意」をかいくぐり、めざすは消失でも終焉でもなく新世界!!

「…なんだ、これ」
本屋の前、そんなポップを目にして彰人は思わず呟いていた。
表紙には黒いメガネに学校制服姿の、バーチャルシンガーの初音ミクによく似た少女が踊っていて。
帯には『新感覚、爽やか絶望系ミステリー!』とあり、盛りすぎでは、と彰人はぼんやりと思う。
「…すまない、待たせ…彰人?」
「ん、おお」
本屋から出てきた冬弥は買ったらしい本の袋を抱え、首を傾げた。
彰人が本に興味を示しているのが珍しいようだ。
「何か面白い本があったのか?」
「いや、面白い本っつうか…これなんだけどよ」
とてとてと近づいてくる冬弥にその本を見せる。
彼は知っていたようで表紙を見ただけでああ、と笑った。
「最近人気らしいな。俺も少し読んだが…普段読まない人がミステリー導入編にするには良いだろうな、と思う」
「へぇ、じゃあ冬弥には簡単だったってことだな」
「…そうだな。だが、ミステリーとしてではなく、ただの読み物としてならとても面白かった」
楽しそうな冬弥に少し興味は湧いたが、彰人はその本を棚に戻す。
実際に本を読むより、冬弥の感想を聞いている方がずっと楽しいからだ。
「なら、その話の感想を詳しく教えろよ」
「…自分で読んだほうが良いんじゃないか?」
「オレは読んですぐ眠くなる小説をわざわざ買うより、冬弥の感想を聞く方が有意義だと思ったんだよ」
「…物は言いようだな」
彰人の言葉に冬弥が肩を揺らした。
それから、強いて言うなら、と上を向く。
「…主人公が、俺に似ていると思った」
「あ?」
唐突なそれに彰人は少し眉を寄せる。
冬弥のとんでも発言は慣れてはいるが…さて、どういうことだろうか。
「もうちょいオレに分かるように話せよ」
「ああ、すまない。…実は、表紙の少女は主人公ではないんだ」
「…マジで?」
「ああ。もう1人少女がいる。その子は自分に自信がないんだ。ある時、世界が突然終幕を迎えると言われた。世界は大パニックに陥ったが表紙の少女は主人公の手を引き、旅に出る事にしたんだ」
「…あー。それで新世界、か」
あらすじを紹介してくれる冬弥に見たばかりのポップを思い出す。
彰人の言葉に冬弥もこくりと頷いた。
「世界を終幕に導いたのはたったひとつのラフな歌。少女たちはその歌を胸に新世界を目指して歩んでいく。固定された常識を捨てて、自分たちが当たり前に信じてきた当たり前を壊して。…自分たちが選んだ歌を胸に、常識空間にさよならを告げ、未来に手を伸ばすんだ」
「…確かにそれだけ聞きゃあミステリーっつうか冒険譚寄りだな」
彰人の感想に、冬弥が「確かにそうだな」と笑う。
「んで?冬弥はなんで主人公に似てるって?」
笑う冬弥は可愛いが、とんでも発言には触れておらず、彰人は首を傾げた。
ああ、と冬弥が微笑む。
彰人が大好きな、その微笑みで。
「主人公は、たったひとつのラフな歌によって表紙の少女と出会った。自分の常識が…自分を縛っていたものが一夜にして壊れてしまったんだ。…何だかそれが、彰人と出会った時のことを…思い出してしまって」
「…オレと?」
「ああ。…クラシックが嫌で一度全て捨て去った俺に、大事なものを思い出させてくれたのは彰人だ。…俺が歌っていたから、彰人が俺を見つけてくれたから、こうして出会えた」
一言一言を噛みしめる冬弥に、彰人は何も言えなかった。
彼が彰人との出会いを大切にしているのは知っていた。
だが、そこまで言ってくれるなんて。
「クラシックという『常識』は、セカイの常識ではないと知った。…彰人はいつも一緒に考えて選んでくれる。それが嬉しい」
「…ったく、お前は!」
「…わっ?!」
優しい笑みの冬弥を引き寄せてわしゃわしゃと頭を撫でる。
何だか妙に気恥ずかしかったのだ。
「オレは、冬弥とだから常識を壊そうと思えたんだよ」
「…!」
「限界を打ち破って伝説を超える、オレの夢に最初に賛同してくれたのはお前だろ。…冬弥」
「…ああ。その通りだ」
彰人の言葉に冬弥が頷く。
たったひとつのラフな歌から、二人は始まったのだ。
きっと、きっと伝説を超えるために。
ありきたりな世界なんかじゃない、目指すのは…壊れた常識の向こう側。
「きっと超えよう。伝説の夜を」
「当たり前だろ。…行くぞ、相棒」
2人はニッと笑い合う。

冬弥と一緒なら、どんな世界だって怖くないと、そう思えた。


「そういや、冬弥は何買ったんだよ?」
「ああ、夏が嫌いな少女が踊るたぬきと夏に関するあれこれに巻き込まれていくハチャメチャミステリーらしい。…今度ワンダーステージでショーをするそうだ」
「…へぇ……。…なんて???」

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