彰冬

「…彰人はすごいな」
突然冬弥に褒められて、彰人は眉をひそめながら振り向く。
褒められて嬉しくないわけではないが、理由がわからないからだ。
無論、彼の言葉に裏はないのだろうけど。
「なんだよ、急に」
「いや、この前の体育祭でも活躍していただろう?…俺には難しいからな」
「…ああ」
冬弥に言われて思い出す。
借り物競争で1位になった彰人とは違い、冬弥は玉入れで撃沈していたからだ。
杏が投げているのを見てイメージはしていたらしいが…アウトプットが難しかった、と悔しそうにしていた。
その後の「…青柳くんから運動音痴か聞かれたんだけど、半運動音痴って答えた」という寧々(が言っていたと司から聞いた)の発言から相当気にしていたのだろう。
彰人たちに聞きに来なかったのは冬弥らしい、と思った。
「…体力ねぇ訳じゃないんだけどな…」
「?彰人?」
「んや、別に」
小さな言葉は彼の耳には届かなかったようで、彰人は取り繕うように笑う。
ともすればこれはセクハラだ。
「ダンスは練習すりゃ出来んだから、球技も出来るだろ。実際、羽つきは出来んだから」
「あれは、彰人が教えてくれたからだ」
「なら、筋は良いってことだろ。…それに」
手に持っていた飲み物を煽る。
スッキリしたスポーツドリンクは喉の乾きを潤した。
「冬弥が得意なことはオレが苦手だったりするし。…だからこそフォローしあえりゃいいんだよ。相棒なんだから」
「…!」
笑みを向けると冬弥は驚いた顔をする。
ややあって冬弥は小さく笑った。
「…ああ、そうだな」
「だろ?…なぁ、そういや数学の抜き打ち小テストって…」
「…。…彰人」
「…わーったよ」
抜き打ちの小テストの範囲をこっそり教えてもらおうとしたのだが、それは駄目だったらしい。
先程の表情とは打って変わって眉を寄せるから彰人はホールドアップの態勢を取った。
怒れるにゃんこは何とやら、だ。
「一夜漬けをしなければ良い成績になるだろうに」
「そりゃ、そうだけどよ。…やる気がなぁ……」
空を仰ぐ彰人に、冬弥は首を傾げる。
「やる気が上がれば、良いのか?」
「ああ?…まあな」
彼の疑問に、それはまあそうだろう、と彰人は頷いた。
原動力があれば何でも良い…訳でも、ないのだけれど。
「なら、カイトさんからパンケーキの作り方を教わってくる」
「…は?」
「その間、彰人はしっかり勉強していてくれ」
「待てって、冬…!」
ふわ、と微笑んだ冬弥がセカイに『逃げる』。
「…期待しているぞ、ダーリン」と、囁いて。
「…やってやろうじゃねぇか」
彼を手を掴みそこねたそれを握りしめ、彰人は呟いた。
その背に見えない炎を背負って。

煽られたから、乗りました。


それってセカイの摂理だ、そうだろ?


(パンケーキも、作った本人も、本気になった彰人に美味しく頂かれるのはまた別のお話!)

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