司冬ワンライ・ロミオと白雪姫/指輪

鏡よ鏡よ鏡さん 私の恋を悲劇のジュリエットにしないで!


ふ、と、上の方に目をやると恋人である冬弥が見えて、司はおぅい!と手を振った。
それに気づいたのだろう冬弥も微笑んで手を振ってくれる。
嬉しくなり、劇で使った余りのそれを取り出した。
跪き、それを高く掲げる。
え、という顔をする冬弥に、司は芝居がかった口調で語りかけた。
「おお、私の愛しいジュリエット!今すぐ救いに行くからな!この真っ赤なリンゴを私だと思っていてくれ!!」
言い終わり、掲げていた真っ赤なリンゴ型の箱を冬弥の方へ放り投げる。
一瞬びっくりしていたようだが、冬弥は無事に放り投げられたそれを受け止めたようだ。
流石だな、なんて笑いながら片手を上げ走り出す。
愛しの可愛いジュリエットに、会いに行くために。



「…司先輩」
「お、冬弥!まだ待っていてくれたんだな!」
図書室に着くと冬弥がふわりと微笑む。
あんな無茶振りなのに律儀に待っていてくれたらしい冬弥に、司は笑った。
「はい。司先輩から『愛』を受け取ったので」
柔らかい笑みで冬弥がリンゴの箱を見せる。
「ちゃんと分かってくれたのだな。流石は冬弥!」
「…はい。けれど、司先輩は以前ロミオをやっていらっしゃったから分かりますが…俺はジュリエット、という柄でしょうか」
「む、というと?」
冬弥のそれに首を傾げれば彼は優しく微笑んだ。
「俺は、あなたはどうしてロミオなの?と悲観したりはしませんから」
「なるほどな。オレも、ジュリエットが死んでいたからといって後を追う事はしないだろう。まあ、キスくらいはするかもしれないが」
「キス、ですか」
「ああ。生き返ってくれるかもしれないだろう?」
くすくす笑って冬弥を抱き上げる。
びっくりしている冬弥に向かって笑いかけた。
「ロミオの熱烈なキスで生き返る、なんてロマンチックだと思わないか?」
「…まるで白雪姫みたいですね」
楽しそうな冬弥に、たしかにそうだな、と思う。
「オレは、冬弥が白い棺にいようとも、必ず連れ出してみせるぞ。狭い狭いヴェローナの外、広く自由な世界までな」
「…!…はい」
へにゃりと冬弥が微笑んだ。
柔らかいそれに、司は触れるだけのキスをする。


ロミオは赤い甘いリンゴを食べて眠った白雪姫を、キスで目を覚したのでしたとさ



「ところで、このリンゴはなんですか?」
「ああ、これか?実は箱になっていてな…ほら」
「…!指輪…ですか」
「ああ。……オレと永久に共に、リンゴを食べてくれないか?」

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