司冬ワンライ・ホッと一息/お気に入り

なかなか忙しい日々だった。
学校が終わった後はワンダーステージでショーをしていたし、そんな週に限って不意打ちの小テストが立て続けだったのである。
もうすぐ合唱祭だからクラスの決めごとも多かったし、息つく暇もなかったのだ。
…そう、例えば。
「…!司先輩、こんにちは」
ショーで使った資料を図書室に戻しに来た司は、かけられた声にホッと息を吐き出す。
青柳冬弥。
司が最近一番会いたくて会えていなかった愛しの…恋人だ。
「久しぶりだな、冬弥!」
「はい。…最近お忙しそうにしていたので…会えて良かったです」
「うむ、オレもだ!」
へにゃ、と笑う冬弥に司も笑いかける。
やはり彼の笑みは癒やされるなぁとこちらも笑顔になった。
忙しかったそれが瞬く間に解けていく。
冬弥は本当に可愛らしく笑うなぁ、とぼんやり思っていた…その時だ。
あの、と冬弥が何かを差し出してくる。
彼の綺麗な手のひらに乗っていたのは小さなキャンディで。
「もし宜しければ。俺のお気に入りなんです」
「そうなのか!では遠慮なく貰うとしよう」
キャンディを摘み上げ、嬉しそうな冬弥を見ながら口に放り込む。
口いっぱいに甘いミルクが広がった。
「…美味い、が、甘いものは苦手ではなかったのか?」
「そうですね。これは一番司先輩を思い…出すので……」
首を傾げる司に冬弥が言いかけ、止まる。
耳元が見事に紅く染まった。
「…冬弥?何を思い出すんだ?」
「…ええと、あの……」
可愛い、と思いつつ聞けば彼は小さな声で「…キスです」と告げる。
「…一息つくどころではなくなったな」
「…す、すみませ…んぅ?!」
小さく笑い、司は冬弥を引き寄せた。



ホッと一息、お気に入りの場所で可愛い彼と二人きり。



(別の意味でホッと出来ないなんて、お約束もイイとこでしょ!)

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