美味いコーヒーがあるんだが、と珍しくも部屋にやって来たカイコクに、多少驚きつつザクロはその扉を開けた。
何か裏があるのかと思えばそんなこともないらしい。
ケトル借りるぜ、とひらりと手を振ったカイコクが手慣れたようにお湯を沸かし始めた。
本人はコーヒーよりお茶の方が好きな割に、彼が淹れるそれは美味しいのである。
ザクロの好みを熟知している、といえば良いだろうか。
…恥ずかしいようなむず痒いような。
「…なんでぇ、珍しい顔して」
「…いや、何でもない」
しばらくして両手にマグカップを持ったカイコクが戻ってくるなりきょとんとする。
首を振るとそこまで興味もなかったのだろう、特に言及することなく、それを差し出してきた。
礼を言ってから受け取り、口をつける。
少し甘目に淹れられたコーヒーに、ザクロはほう、と息を吐いた。
「…うん。美味いな」
「そりゃあ良かった」
ほわ、と笑うカイコクはマグカップを持ったまま何やらそわそわしている。
いつもよりほんの少し上の空で、ザクロは気にしながらも特に聞くことはなかった。
…真正面から聞いても答えてはくれないだろうから。
「鬼ヶ崎」
「…ん?どうした?忍霧」
「どうした、は俺の方なのだがな…」
余裕の笑みはいつも通りなのだが…さてどうしたものだろうか。
小さく息を吐き、顔を上げた途端である。
「…忍霧」
「は?…な、に……」
急に悩みを呼ばれたかと思えば、カイコクの綺麗な顔が近付いてきた。
え、と思った瞬間、マスク越しにちゅ、と口付けられる感触がする。
そうして。
「…誕生日おめでとうさん、忍霧」
柔らかい声で囁かれた。
理解が追いつかない頭で彼を見ればザクロが好きな笑みで微笑んでいて。
ああ、自分はまた誕生日を忘れていたのだな、と、そう思った。
あんなに周りはクリスマスと盛り上がっていたのに。
「んじゃ、用はそれだけでぇ。また明日な」
「ま、待て!!」
そそくさと離れ、立ち上がろうとするカイコクの手を握り無意識に引き止める。
日付が変わった途端プレゼントを贈る、なんて可愛いことをするくせに照れ隠しで逃げようとするなんて。
逃したくないと、思った。
ぐらりと蹈鞴を踏んだ彼がこちらに倒れ込んでくる。
「おわっ?!!」
「…まだ、俺から貴様にプレゼントを渡していない」
「俺の誕生日はまだだぜ?忍霧」
「クリスマスもあるだろう?」
「俺ァ、誕生日プレゼントしか渡してないぜ」
「ならクリスマスプレゼントもくれれば良いだろう?」
「…この欲張り」
「知っているくせに」
「ま、違いねぇな」
くすくす笑いながらザクロはカイコクのお面を外し髪を乱した。
カイコクもへにゃ、と笑いザクロのマスクをずらす。
たまにはお互いに素直でも良いだろう。
だって今日は聖なる日。


(未来ある青少年が産まれた日!)





「…なぁ、毎年思うんだが…最終的に俺が甘やかされてねぇか?」
「それがプレゼントなのだが?…たまには素直に甘やかされていろ」

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