司冬ワンライ・幼少の夢/大人になったら

大人になったら何になりたい?

大人になったらね…



「オレは大人になったら皆を笑顔にするスターになるぞ!」
えへん!と胸を張る司に冬弥がぱちぱちと拍手する。
割といつもの光景だが、今日はその後が違っていた。
今日は何せ成人式なのである。
「冬弥はどうだ?」
「え?」
わくわくしながら問いかける司に冬弥がきょとんとした。
「大人になったら何になりたい?」
「…。…分かりません」
司のそれに冬弥は少しだけ悩んでからそう答える。
まさか、分からない、が返ってくるとは思わなくて今度は司がきょとんとしてしまった。
「分からない?」
「はい。父さんや兄さんたちと同じようにクラシックの道に進むと思ってはいるのですが…」
「ふぅん。真面目だなぁ、冬弥は」 
「…え?」
思わず呟いてしまったそれに、冬弥が首を傾げる。
彼は真面目だ。
親や兄と同じ道に進まなければ、と思っている。
…別にそんなことはないのに。
「冬弥自身がクラシックをやりたいと思うならそうすれば良い。だが、可能性は自分で狭めてはいけないぞ!」
「…!」
お手製の小さな舞台に登り、冬弥に向かって笑いながら手を伸ばす。
「夢は諦めるものではなく叶えるものだ。やりたいなら挑戦すれば良い。それに、オレはいつだって、冬弥に笑っていてほしいと思っているんだぞ?なにせ、オレは冬弥が大好きだからな!!」



「…あったなぁ……」
「…ありましたね」
何故だが母親に「ハーフ成人式の動画がある」と家に遊びに来ていた冬弥と共に見せられた司は少し遠い目をした。
またこれは熱烈な愛の告白だと笑ってしまう。
幼少期から自分はちっとも変わらなかったようだ。
「まあ、今も幼少よりその夢は変わらないがな」
「皆を笑顔にするスターになりたい、ですか?」
「もちろんそれもだが…」
こてりと首を傾げる冬弥の手を持ち上げる。
その手にキスを落とし司は笑った。
「オレは冬弥に笑っていてほしいと思っている。なぜなら」
珍しく顔が赤い可愛らしい恋人に、司は囁く。

幼少から変わらない、…いや、もっと大きくなった愛の言葉を。

「お前を、愛しているからな。…なぁ、オレの可愛らしいお嫁さん?」



大人になったら何になりたい?

大人になったら…




『…なら、ぼくは、司さんのお嫁さんになりたい』

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