ルカ誕生日

あ、どうも、鏡音レンで…。
「あっ、レンくんだぁ!ちょっと来て…」
「ボクハ鏡音レンデハアリマセン」
「さっきまで流暢に喋ってたでしょ?!」
もー!というのは電子の歌姫初音ミクことミク姉ぇだ。
普通にしてりゃ世間一般の初音ミクと変わらないのに、あることが絡むと面倒くせぇんだよな。
「ほらー、早く早く!」
「何、もー…」
引っ張られるままミク姉ぇの部屋に連れて行かれる。
そこには。
「あら?レンじゃない」
「アドバイザーってレンのこと?」
「…お邪魔しました!」
「レンくん待って!!!」
キョトンとしたメイ姉ぇと首を傾げるリンがいて、おれはすぐさま部屋を出ようとした。
ぜぇったい面倒くせぇ気しかしない!!!
「お兄ちゃんの、激レアショットあげるから!」
「はあ?!何勝手に撮ってんのさ何の写真?!」
「レンくんの曲聴きながらもだもだしてるお兄ちゃん」
「あ、あたしもあるよー!最近出たレンのぬいぐるみにキスしてるやつ!」
「あら、私もあるわよ。レンの服抱きしめて寝てるの」
「兄さんガバガバ過ぎないかなぁあもぉお何なりとお申し付けくださいませ!!!」
差し出される賄賂におれは膝をつく。
こうなりゃおれは女性陣の言いなりでしかないもんな。
「そういえばルカたんは?」
「さっき兄さんの誕生日ケーキ作り手伝ってた。なんか、今年はルカ姉ぇの好きなものをアイシングクッキーで飾るらしくて、デザイン一緒に考えてたよ」
きょろきょろと周りを見回すリンに言えばメイ姉ぇが首を傾げた。
「…。…毎年毎回思うけど、カイトもボーカロイドよねぇ…?」
「お姉ちゃん自信持って。お兄ちゃんもちゃんとボーカロイドだよ!」
「ちゃんとって何さ」
グッと拳を握るミク姉ぇに、冷静に突っ込む。
ちゃんとも何も兄さんはボーカロイドだろ。
「まあ、カイ兄ぃのパティシエぷりは置いといて」
「置いとくなよ」
「置いとかないと先に進まないのよ?レン」
「わぁ、正論ありがとうメイ姉ぇ」
そんなド正論におれは棒読みの感謝を述べる。
ま、今日の議題はそれじゃないだろうし。
「で?何アドバイスすりゃいいわけ。今年はサプライズしないんだろ?」
とりあえずぐるりと三人を見回した。
そう、今日はルカ姉ぇの誕生日。
毎年毎年サプライズを決行してきたけどそろそろネタがなくなってきたのと確実にバレるからってんので、なしになったんだよな。
まあ、ひとつ屋根の下でバレない方がおかしいけどさ(ミク姉ぇみたいに忘れてるのは置いといて)
「ええ、サプライズはしないわ」
「んじゃあ何…」
「スケジュールを立てたから見てほしいんだよねー!」
「ねー!」
頷くメイ姉ぇに嫌な顔をして見せれば、リンとミク姉ぇが楽しそうに言った。
はぁ、スケジュールねぇ?
受け取った髪を広げてみる。
なになに?えぇと…。
「『日付が変わった瞬間、三人で部屋に入ってバースデーソングを歌う、その後はプレゼントタイム』。まあいいんじゃね?後は『仮眠を取ってから朝ごはん兼昼ごはん』。兄さんはどうか分からないけどおれは許容範囲だな。『食事が済んだらデート、1時間につき1人、計3ヶ所を巡る』。うん、良いんじゃね?1時間って割と短いけどな。『最後に家に帰ってみんなでお祝い、ケーキを食べる』。悪くないと思うけど」
「でっしょー!じゃあこれで…」
「待て待て待て、おかしいところが一つある」
ひゃっほう!とテンションが上がるリンをおれは止める。
なぁに?と首を傾げるリンに、おれは紙の一番上を指差した。
「ここ、『1人2時間のいちゃいちゃタイム』って何」
「え、そりゃあいちゃいちゃタイムだけど」
「めくるめくオトナの時間ってやつだよね」
「愛を語り合う夜時間、とも言うかしら?」
「仮にも青少年設定のボーカロイド相手に何言ってんの?!」
不思議そうな三人におれはツッコむ。
まあ直球で来られるよりマシだけどさぁ?!!
「レンくんだってお兄ちゃんとするのに?」
「それとこれとは話が別だし一対一じゃん。一対三とは訳が違うじゃん」
「一緒だよぅ」
「ルカ姉ぇが可哀想だろ!!」
「三人同時ってわけじゃないんだし…待って、それも有りね…」
「メイ姉ぇは自重して?!」
ふむ、と考えるメイ姉ぇ。
そこが暴走されたら困るんだけど!
「あら、冗談よぉ」
「ったく…。…つーか、ルカ姉ぇに聞いたら良いじゃん」
カラカラと笑ったメイ姉ぇに、息を吐きだしてからそう言う。
これ以上巻き込まれるのはごめんだし。
「何聞くの?三人でやって良いか?」
「なんでだよ。このスケジュールで良いか聞くの。どうせサプライズじゃないんだろ」
「まあそうだけど」
首を傾げるミク姉ぇに言えばちょっと悩み出した。
え、そこ悩む?
…と。
「失礼します。ミク姉様、カイト兄様が…あら、全員いらしたんですのね」
コンコン、と響くノックの後ほんの少し開かれた扉の先には本日の主役、ルカ姉ぇがいた。
「ちょうど良かった。ルカ姉ぇ、これ見て」
「…?はい」 
「あぁあ?!待って待って!」
「まだ良いとは言ってないわよ?!」
「ルカちゃんもストーップ!」
紙を受け取るルカ姉ぇと、響く三人の声。
あら、とルカ姉ぇが笑う。
「ふふ、素敵なバースデーにしてくださってありがとうございます。けれど、カイト兄様の朝ごはんと昼ごはんはしっかり食べたいですわ。それに、デートも1人につき2時間は一緒にいたいですし、余韻にも浸りたいです。ですから…」
キュ、キュ、と赤いペンで訂正を入れていたルカ姉ぇが何かを書き足した。
にこりと笑うルカ姉ぇに、あー、あの三人に愛されてるだけあるなぁ、と思う。
「最初に3時間、夜にまた3時間で…どうでしょうか?」



本日、ルカ姉ぇの誕生日。
存外愛されたがりだよなぁ、なんて思いながらおれはそっと部屋を出る。

ま、メイ姉ぇもミク姉ぇもリンも、愛したがりだから丁度良いと思うけどな!

(所謂、お似合いってやつ!)


「…兄さん、んな所でしゃがみこんで何やってんの?」
「…ううん、なんでも。レンが何を持ってるのかちょっと気になっただけだよ?」

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