マキノ誕生日

そういえば今日は誕生日だ。
誰の?
もちろん、自分の。
いつもは忘れがちだし、そも、自分のことにあまり興味はないマキノだが、このゲノムタワーに来てから毎年きちんと思い出すのはこの男のお陰だった。
「…逢河ァ」
ふわ、と笑って部屋にやってきたのはその男、鬼ヶ崎カイコクだ。
美味しいというお茶と茶菓子…彼が苦手だから甘いものはほぼないが…を持参して部屋にやってくる彼は、部屋では特に何もしない。
マキノの部屋にある本を読んだり、少し話したり、いろいろだ。
日付が変わる少し前にやってきて、日付が変わった少し後に「おめっとさん」と笑みを見せ頭をなでてくれる。
誕生日プレゼントと呼ばれるだろうものはそれくらいで、朝になれば彼は自室に帰ってしまうのだ。
なんだか猫みたいだなぁ、と思う。
朝が来ればいつも通りで、マキノの誕生日を一番に祝ってくれたなんてお首にも出さないのだ。
「…ねぇ、カイコッくん」
「んー?なんでェ」
「好きだよ」
「…っ、そりゃ、どうも」
今日もお茶を淹れてくれてからマキノの部屋にある本を読もうとしていた彼にそう言えば、一瞬固まったがすぐにへらりと笑った。
カイコクはそういうところがある。
本心を見せないというかなんというか。
そういう所も猫らしいと、マキノは思う。
「カイコッくんは?」
「んー?」
「カイコッくんは、僕の事、好き?」
彼のことを見て、こてりと首を傾げた。
マキノは言葉より目で語る方が得意だ…あまり自覚はないけれど。
カイコクの方は目で訴えられるのが苦手なようで、ふいとすぐ目をそらす。
今日は本で顔を隠してしまった。
いつもならばそれで諦めてしまうが今日はカイコクの口から聞きたかったのだ。
じぃっと見つめていれば、彼は小さく息を吐いた。
「…嫌いなら、こんな風に一緒にいたりはしねぇだろ」
珍しくごにょごにょと口篭るが、今日はそれで終わらせたくない。
言葉を待っていればふっとカイコクが近づいてきた。
頬に軽く触れるそれ。
「…とりあえず勘弁してくんなァ」
許してくれ、と言わんばかりの言葉にマキノは頷いた。
望んだ言葉は聞けなかったが、それでも嬉しかったのだ。
それに。
「…お祝い、してくれるだけで嬉しいよ」
「…おう」
目を細めるマキノに、カイコクも笑った。

いつもの言葉がマキノに囁かれる。
「おめっとさん」なんて、素っ気ない彼の、優しい言葉が。

マキノにとってそれは…最高の…プレゼント。


(素直でない彼からの、愛のメッセージ!)

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