ザクカイ♀️バレンタイン

2月14日。
恋する乙女なら…いや、恋しない男もだろう…そわそわしてしまう日。
だと、ザクロは思っていたのだが…。
「なァ、忍霧ぃ」
「…なんだ?」
「これとこれ、どっちが良いと思う?」
彼女が持っているのは煮干しの袋だった。
どっちでも良くないか、という言葉をザクロは頑張って飲み込む。
今日は煮干しの日だ。
ゲノムタワーに来てから、カイコクに教えてもらった。
…別に知らなくても良かったのだけれど…。
まあ彼女が好きなものを知ることができたのは正直嬉しい。
嬉しいが、今日でなくても良かったのに。
「忍霧ー?」
呼びかけられ、ザクロはハッとする。
それからすぐ、「何が違うんだ?」と聞いてやった。
途端、目を輝かせ、これはな、と教えてくれる。
歳相応な様子の彼女に、まあ良いかとザクロは思った。
朝から一緒に出かけてくれないか、なんて誘われた時にはバレンタインデートかとドキドキしたのだが…そうは上手く行かないらしい。
思っていたのとは違うが、カイコクが楽しそうならばそれはそれでありなのでは、と思うようにした。
彼女が好きなものを一緒に選ぶ、なんてデート以外の何物でもない…中身はチョコではなく煮干しだが。
つれて来られたのはゲノムタワーの1階、お土産フロア、なんて書かれた場所で何でもあるな、とザクロはそんな場合でもないのに感心してしまった。
「好きならばどちらも買えば良いのではないか?」
「…いや、せっかくの煮干しの日なんだ。一番良いものを食いてぇだろ?」
へにゃ、と笑うカイコクにそういうものか、と思う。
ならば、とザクロは1つを指差した。
「俺は、こちらのほうが良いと思う。値段の割にたくさん入っているし、あっさりしているとたくさん食べてしまうだろう。…長く楽しみたいなら味が濃いほうが良いのではないか?貴様が好きな緑茶とも合いそうだ」
「…なるほど、一理あるな」
ザクロのそれにふむ、と考えた彼女が笑い、指差した方ではないものを棚に戻す。
買ってくる、と笑うカイコクを見送り、ザクロは「プレゼントした方が良かったのでは」とふと思いついてしまった。
否定した方をプレゼントするのもどうかとは思うが…と悩んでいれば、すぐに戻ってきた彼女が首を傾げる。
「待たせー…何やってんだ?」
「いや、別に」
「はっはーん、忍霧も食いてぇんだろ!」
さら、と長い髪を靡かせ、カイコクがザクロの手を握った。
「え、いや、ちが」
「遠慮すんな!…しゃーなし、一緒に食わせてやる」
イタズラっぽい顔で笑う彼女は、それとも、と何かを差し出す。
ザクロの目の前にあるのは紫色の可愛らしい箱。
…まさか、と目を丸くすればカイコクは勝ったとばかりに笑った。
…嗚呼、今年もやられてしまったなんて。
「こっちがお目当てかい?…なぁ、ザクロくん」



素直じゃないカイコクがくれる、チョコレート。
煮干しの日に、隠れた…

本日、バレンタインデー!!

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