しほはるホワイトデー

「…さて、と」
小さなラッピングをし、志歩は息を吐いた。
明日はホワイトデーだ。
チョコレートファクトリーで作ったうさぎ型のチョコレートは我ながら上手く出来たし、喜んでもらえる自信がある。
「…。…桐谷さんには、どうしようかな」
ふと呟き、スマホを取り出した。
チョコレートファクトリーに一緒に行った桐谷遥は、姉の雫やクラスメイトのみのり達とアイドル活動をしていて、少なからず自分も世話になっているのだ。
志歩には縁遠いと思っていたが、同じキャラクターが好きだったり、なかなか話も合う。
彼女にも何か渡したいが、同じチョコレートにしては芸がないな、と思った。
…一緒に行ったのだ、手の内は知られている。
「…あ」
ネットサーフィンをしていた志歩は一つの記事に目を留めた。
それから、そのお菓子について調べ始める。
存外簡単に出来るらしいそれに、挑戦してみるか、と志歩は戸棚を開いた。



次の日、クラスメイトであるみのりやこはね、それから隣のクラスのえむ(別の学校である寧々にはなかなか会えないので渡してもらうことにした)、姉と姉が色々世話になっている愛莉、バンドメンバーの一歌、咲希、穂波、そうしてバーチャルシンガーのミクやルカ、リン、メイコ、レン、カイトには無事に渡すことができた。
後は…。
「桐谷さん」
「…!日野森さん!」
呼びかけると遥がパッと表情を明るくさせる。
流石アイドルだな、とぼんやりそんなことを思ってしまった。
「こんにちは。チョコレート、無事に渡せた?」
「うん、渡せたよ。桐谷さんは?」
「私も。みのりには、暫く神棚に飾るって言われて焦っちゃった」
「教室でも同じこと言ってた。こんなに一緒にいるのに全然慣れないよね、みのり」
くすくすと笑う遥に、志歩は肩を竦める。
そうだね、と笑みを浮かべた遥がふと首を傾けた。
「そういえば、用事って?」
「ああ。…これ」
はい、と渡すと遥は目を丸くしてからふわ、と表情を和らげる。
「ありがとう、日野森さん。嬉しいな」
「大したものじゃないよ。この前一緒に作ったものとは違うけど」
「そうなの?ふふ、楽しみだなぁ」
嬉しそうに笑った遥が、そうだ、と自分のカバンを探り、何かを差し出してきた。
「じゃあ私からも。ハッピーホワイトデー、日野森さん」
「…!ありがとう。別に良かったのに」
「ううん。チョコレートファクトリーのお礼も、してなかったし」
はにかむ遥は可愛らしくて、何となくみのりが推している理由が分かるような気がし、少し目をそらす。
「開けても、良い?」
「え?うん、良いよ」
遥に了承を得てから志歩は包みを開いた。
可愛らしいうさぎが描かれた箱に思わず、可愛い、と言葉が漏れる。
「中身をうさぎさんの形にしようと思ったんだけど…可愛すぎたら食べられなくなるかもしれないから」
照れたように笑う彼女に促されるよう箱を開けると、星型のチョコレートが並んでいた。
無意識に手を伸ばし、口に放り込む。
「…あ、キャラメル」
「うん。…私の気持ちも伝えたいな、と思って」
「そっか。…なら、私達両思いだね」
そう笑う志歩に遥はきょとんとした。
それから渡した箱に目を落とす。
ラッピングを開き、ようやっと分かったと彼女は笑った。
箱の中にあるのはマドレーヌ。
…その意味は。

「これからもずっと宜しく、…桐谷さん」
「…こちらこそよろしくね。日野森さん」

二人して微笑み合う。

春は、もうすぐそこ。


(風の噂か、スーパーアイドルの桐谷遥が、あの日野森志歩と付き合っていると噂が立つまで、そう時間はかからない)


「ところで、キャラメルも作ったの?」
「?うん、そうだよ。折角だし、私の気持ちもたくさん込めたいなと思って」
「…桐谷さんのそういうトコ、私は好きだよ」
「ありがとう。…私も日野森さん好きだよ」


キャラメルはあなたは安心できる人
マドレーヌはもっと仲良くなりたい

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