司冬ワンライ・ホワイトデー前夜/お菓子言葉

さて、天馬司は悩んでいた。
仲間たちへのお返しは思いついたものの、冬弥へのお返しは思いついていなかったのだ。
冬弥は特別だ。
幼馴染で可愛い後輩で、それから恋人で。
だからこそ特別なものを送りたかったのである。
「…うぅむ……」
スマホを眺めながら司は唸った。
冬弥は甘いものが苦手だ。
彼の好物であるクッキーは、あまり良い意味ではないらしい。
甘くないもので、尚且つお返しとして成り立つもの…。
と、一つの記事が目に止まった。
ハッとして読みすすめていく。
「…こ、これだぁあ!!!」
思わず大きな声を上げてしまった。
…まあ日常茶飯事なので家族は気にしないだろうが。
司は慌てて財布を握り締め外に出る。
目指すはショッピングセンター、一択だ。



「冬弥!」
司は、待ち合わせをした人物に大きく手を振る。
それに気づいたらしい冬弥も小さく手を振った。
「すまない、待たせた!」
「いえ、俺も早く着いたので。…それより、どうかしたんですか?」
「なぁに、今日はホワイトデーだろう!」
首を傾げた冬弥に、買ってきたそれを手渡す。
「ハッピーホワイトデー、冬弥!」
「…ありがとうございます」
少し驚いていたらしい冬弥がふわりと笑みを溢した。
掴みは上々だろう。
「これは…」
「ぜひ、開けてみてくれ」
何故だが司がワクワクしつつ冬弥に言う。
小さく笑った彼はそっとそのラッピングを開いた。
「キャンディ、ですか。たくさん色がありますね」
「そうだろう!この飴は喉にも良いらしい!たくさん舐めて、素敵な歌を響かせてくれ」
司は笑いながら瓶をひょいと取り上げる。
蓋を開け、一つつまみ上げてから彼の口の中に入れた。
「なぁ、冬弥。お菓子言葉を知っているか?」
驚く冬弥の口の中に消えたのは司と同じ、綺麗な黄色をしたそれ。
キャンディーのお菓子言葉は「貴方が好きです」。
そして、レモン味のキャンディーは。
「…オレはいつだって冬弥に与えてやるからな」
司は笑い、柔らかい笑顔の彼にそっと口付ける。
仄かに、レモンの味が…した。



レモンは初恋の味だという。
そうしてそれから。

(司が冬弥に渡すのは、いつも変わらない真実の愛!)


「先輩、俺からもこれを」
「おお、ありがとうな、冬弥!…これは、マカロンか!」

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