ホワイトデー

さて、本日ホワイトデーである。
一応チョコレートをもらったのだから、とザクロはぼんやりと店を眺めていた。
「よっ、忍霧」
「うわっ、鬼ヶ崎?!」
とん、と肩を叩かれ、思わず驚いてしまう。
きょとんとした彼女は可愛らしく、クスクスと笑った。
ふわふわとカイコクの長いポニーテールが揺れる。
「うわっ、ってなんでぇ、うわっ、って」
「す、すまない。しかし、何故ここに?」
「ん?あぁ、面白ぇもんが見れるから行ってみろって、路々さんが」
「…路々森…」
ピースする姿が容易に想像出来た年上の彼女に思わず拳を握った。
最初に会ったのがユズなものだから、常に揶揄われてしまうのだ。
「んで?お前さんは何してんでぇ」
こてりと首を傾げるカイコクに、ザクロは息を吐く。
サプライズにしたかったが…素直に言うことにした。
どちらにせよ、彼女に隠し事は出来ないのだし。
「貴様がくれたバレンタインのお返しを考えていた」
「…へ、ぇ…?」
「今日はホワイトデーだろう」
ぽかんとするカイコクにそう言えば、ややあって彼女はクスクスと楽しそうに笑った。
「お前さんは…相変わらず律儀だねぇ」
「好いた者からの贈り物に誠意を表すのは当然ではないか?」
「…そういうとこだな」
至極当然、と言えばカイコクは柔らかく微笑む。
良くは分からなかったが、悪い言葉ではないようだ。
「んで?何をプレゼントしてくれんだ?」
「そうだな…貴様は甘いものは好かんだろう?かと言ってアクセサリーは…」
「…戦うのに邪魔になるからいらねぇな」
「言うと思った。女子なのだから少し大人しくしていてほしいものだが」
「そりゃ、まあ考えるだけは考えててやるよ」
軽く笑う彼女に、考える気はないな、と息を吐く。
カイコクは意外と好戦的だ。
好きな人には傷つかないでほしいだけなのだが…と。
「?鬼ヶ崎?」
「…へ?」
何かを見つめていたカイコクに話しかけると、彼女は驚いた目でこちらを見た。
すぐに、何でもない、とへらりと笑ったが、そんなものでは誤魔化されない。
視線の先を辿れば、バスソルトの文字があった。
「バスソルト…入浴剤か」
手に取ったのはよくあるバスソルトだ。
藤の香り、とあるそれは見た目は可愛らしい形をしている。
「鬼ヶ崎もバスソルトなどに興味があるのだな」
「いや、あの、まあ…」
珍しくごにょごにょと言うカイコクをじぃっと見つめていれば少したじろぎ、諦めたように息を吐いた。
「…色が、お前さんに似てたから」
「ん?」
「だからっ!その色がお前さんの目の色に似てるって…!」
随分可愛らしいことを言ってくれるカイコクの手を取りザクロは笑む。
自分の瞳と同じ色のバスソルトがほしい、なんて誘い文句でしかないのだから!
「ならば、このバスソルトを持って今晩お前の部屋に向かおう。…後悔するなよ?」
なあ、鬼ヶ崎?
そう笑ってザクロは取った手に口付ける。

本日ホワイトデー。


好きな人に想いを返す、そんな日!



風呂で逆上せたカイコクを看病し、第二戦が始まったのは、また別のお話。

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